そのねこがうたうとき

物語偏愛者の詭弁と戯言

『STRONG WORLD』感想(1)―ONE PIECEはなぜ「再び」面白くなったのか

定番過ぎてあまり語られる機会の多くない漫画ですが、『ONE PIECE』は好きでずっと欠かさずに読んでいます。どれぐらい好きかというと、全56巻のサブタイトルをすべて暗誦しているぐらい。……微妙? まあ、というわけで観てきました『STRONG WORLD』。

shimada

せっかくなので、ネタバレあり・なしの2回ほどに分けて感想を書いてみたいと思います。今回はネタバレなし、『STRONG WORLD』を通じてONE PIECEはなぜ人気なのか?みたいなところに通じていければと。

起爆剤となった3つの要因

公開からまだ3日しか経ってませんが、すでに大ヒットみたいなことが言われています。

 12日公開のアニメ映画「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」の初日興行収入(初日興収)が、東映の初日興収の最高記録を樹立した。同社が過去最高の興収51・1億円を記録した「男たちの大和 YAMATO」(05年)の初日興収1・7億円を大きく上回る4億円を突破。

asahi.com(朝日新聞社):ワンピース4億円!東映の初日興収で最高 - 日刊スポーツ芸能ニュース - 映画・音楽・芸能

4億突破がどれぐらいすごいかと言えば、ここ数年のワンピ映画はどれも興収10億を越えていません。ここで言われている「4億」は初日のみの数字なので、昨日までの2日間で10億に肉薄する数字が出ているんじゃないかと。そもそもコミックスのファンがあれだけいるんだから、潜在的にヒットする可能性は秘めていたんですよね。

それでは何故今回に限ってこれだけのヒットにつながったのか。1つには限定配布されている0巻の存在。転売屋も含め、この土日の大半はこれ目当てだったと思われます。そして次に、原作者の尾田先生が製作総指揮を務めたこと。オリジナルストーリーだと脚本がいつも酷……うわなにするやめr で、まあ単に尾田先生脚本ってだけでなく、そこに原作と濃密にリンクするキャラクター“金獅子のシキ”が登場すること。これが3つ目の要因と考えます。

シキについては前々から大々的にアナウンスされていました。曰く、「ロジャー、“白ひげ”と肩を並べた」「空飛ぶ海賊」で、「20年前にインペルダウンを脱獄した」と。ONE PIECE読者なら、この設定でボルテージが上がらない方が妙ってもんです。だってロジャー絡みですよ? 僕が映画を観に行った動機の中でも、「シキを見たい」というのは大きな割合を占めていました。

シキを「すごい」と思わせる説得力

さて、それじゃあ何故シキが「すごい」と言い得るのか? 冷静に考えれば「ロジャー絡み」と言ったところで、読者以外にはそのすごさは伝わりません。フィクション作品だから、そこに現実の尺度を当てはめることは必ずしもできない。その世界特有の尺度を作品の中で描き、説得力を持たせる必要がある。このように考えてみると、ONE PIECEは人物の「格」や「ポジショニング」といった設定を描くのが上手く、それによって作品全体の「面白さ」が築かれている節があるように思います。

先のロジャーといえば、作中では海賊の頂点の称号“海賊王”を有する唯一人の人物。彼の存在は第1話の1ページ目にすでに描かれ、当初から「海賊の格の限界」は設定されているわけです。その後ルフィは旅の中でア様々な海賊に出会っていき、クリークの登場によって“東の海最強”というレベルが、そしてさらにミホークとゾロの対決によって、それを遥かに上回る“世界最強クラス”のレベルも早い段階で明示されます。そして後にミホークが“七武海”の一員であることも明かされるわけですが、このことは“グランドライン”最初の強敵として立ちはだかる、クロコダイル登場に向けた伏線として大きな役割を持ちます。さらにクロコダイルの対決を前にした段階では、さらにその上のレベルを臭わせる“白ひげ”の存在が明かされ、その傘下のエースが登場してくる。この辺りの伏線は周到に張られています。

他にも「四皇」「三大将」「11人の超新星」など、いかにも少年マンガチックなラベリングがいくつも登場します。重要なのはラベリングの登場パターン。まずそのラベリングを持った人物が一人だけ登場し、後に同じラベリングを持った人物が続々現れてくるパターンが多い。これにより、初めて登場する人物でも何となく格やポジショニングがイメージできるようになっている。シキの強さも、ロジャーや“白ひげ”が原作で描かれてきたからこそイメージできるものでしょう。

それぞれのキャラがしっかりと名に負けぬ強さを持ち合わせていることも、説得力を増す要因になっています。先のクロコダイルとの戦いは、ゾロが負けた“七武海”に、今度はルフィが立ち向かうという展開。結果として彼は二度もクロコダイルに敗れるわけで、「やっぱ“七武海”強いじゃん!」と読者に思わせてくれた。

ONE PIECEは空島編辺りで若干人気が落ち込んだようですが、最近自身が持つ「最高初版発行部数」を更新した*1ように、「また面白くなった」と言われるようになっています。それは言わずもがな、“白ひげ”“七武海”“海軍本部”という三者の対決があるから*2。非主人公サイド同士の戦争が、こんなにも面白そうな漫画というのも珍しいかもです。

ONE PIECEは壮大な歴史書である

ところで、最近こんなエントリーを見かけました。

バカ売れの海洋冒険マンガ『ONE PIECE』の面白さについて考えみる - 風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る

こちらでは人気の理由がいくつか挙げられていますが、特に最後の「世界の魅力」。これは前項で触れた設定描写の上手さにも通じるものがあるかと。おそらく尾田先生の頭の中には、歴史、地理、人物といったあらゆる要素を含んだ「ONE PIECE世界」の全体像がかなり細かく出来上がっています。それは主人公のルフィがいない場所も含めてです*3ONE PIECEはそれを忠実に描き切っている、いわば「壮大な歴史書」のようなものじゃないかと思うんですよね。

だから行き当たりばったりのインフレではなく、徐々に格の高い人物を計画的に出していって、ワクワクするような展開を作り上げることができる。どこから切り取っても面白い物語になる。ときにその巻数の多さが揶揄されるONE PIECEですが、あれだけの蓄積があったからこそ、今あれだけの厚みのある、相当面白い「頂点の戦い」が描けているのではないかと*4

以上、シキの話からかなり飛んだ話になってしまいました。というか感想と銘打っておいて感想書いてないしw ONE PIECE世界の中ではシキは「伝説」に近い存在で、その背景が原作の中に深く根ざしているからこそ、今回の劇場版は面白そうだと期待された、というのが結論ですね。では果たして、映画はその期待に応える内容になっていたのか?という点は、次回のエントリーで書いていきたいと思います。

(追記 09-12-15 13:00)

続き書きました。『STRONG WORLD』感想(2)―レンタルするぐらいなら劇場で - 一詩人の最初の歌

ONE PIECE YELLOW
ONE PIECE YELLOW
posted with amazlet at 09.12.14
尾田 栄一郎
集英社

「世界」の厚みを知るには、こういうガイドブックの存在も嬉しいところ。

*1:[http://natalie.mu/comic/news/show/id/24391:title]

*2:インペルダウン編の怒涛の展開ももちろんですが。

*3:ルフィの生まれる前を描いた第0話や、実質スピンオフにあたる「短期集中表紙連載」を見れば一目瞭然。

*4:もちろん、冗漫な部分も相当ありますけどね。