そのねこがうたうとき

物語偏愛者の詭弁と戯言

ルフィが叫ぶのは、彼にはそれしかできないからだ

尾田栄一郎『ONE PIECE』 - 紙屋研究所

つまらない理由ってのはかなりいろいろあると思いますけども。

  • 回想が長いし多い
  • バトルが長いし多いし意味わからない
  • 本筋からちょくちょくずれる
  • いつ終わるのかわからない
  • お涙ちょうだいすぎる

かく言う僕も空島編は挫折しかけました。長い目で見るとあのストーリー自体は不可欠な伏線だった気がするけど、それにしても巻数使いすぎだろ。空島編でしか登場しない人物の回想とか誰得やねん*1

で、精神論。実際のとこ超絶精神論漫画ではあると思うので、それを言っちゃーおしめーよな部分はあると思うのです。ただ、それが空虚なものに終わってるかと言うとどうなんでしょうね。

できないことへの敏感さ

精神論ですべてが片づいてるように見えるけど、一方で「できないこと」にもすごく敏感な漫画だと思うんです。パーティの構成からしても各々に役割が充てられてるし、チョッパーやウソップみたいな戦闘力に秀でてないものに対しては、「おまえにできることを」という言葉が頻繁に現れます。

じゃあルフィには何ができて何ができないかと言うと、その答えは10巻目にしてすでに定義されている。

「おれは剣術を使えねェんだコノヤロー!! 航海術も持ってねェし!! 料理も作れねェし!!ウソもつけねェ!! おれは助けてもらわねェと生きていけねェ自信がある!! 」

「そんなプライドもクソもねぇてめェが一船の船長の器か!?てめェに一体何ができる!?」

「お前に勝てる」

この言葉によってこの漫画の行く末は規定されたように思います。ルフィは強くてすごくてみんなを引っ張るけど、でも引っ張るだけであって、パーフェクト超人ではありえない。仲間や味方をもつことの重要さを彼は知っている。

たぶん、彼にできることって超人的な力で敵を倒すことと、それによって仲間を守ることだけなんですよ。だから彼は叫ぶ。ていうか叫ばなきゃいけない。絶望的に勝てない相手でも、それを倒すことが彼に課せられた使命であって、アイデンティティである。故に空虚であっても叫び、足りない部分はいろんな人の手を借りてハンディを補う。精神論は勝つための武器ではなく、勝つ前の前提条件みたいなもの。彼に不屈の精神があるからこそ協力してくれる仲間がいて、だからこそ彼は勝てる。逆を言えば、そのアイデンティティがなくなった瞬間の彼は脆く崩れる。精神で体を支えてるみたいな男です。

努力や挫折がない? それはあの漫画は「あえて」やってるんじゃないかな。分厚すぎるほどの回想シーンに「努力」と「挫折」を蓄えてしまって、彼らはすでにそれを乗り越えた超人として描かれる。10年前にまったくの無力だったルフィは、わずか1話で猛獣をぶち倒すまでの力を手に入れていて、その道程の描写は徹底して省かれています。それでも壁にぶち当たってしまったから、ゾロは常に鍛錬に励む人物として描かれる。

で、一味自体が壁にぶつかったのが最近の展開なわけで。

ONE PIECEをなぜ読み続けるのか

僕が「ONE PIECE」を読み続けてる理由はなにかと言えば、「世界を果てまで見たいから」と「カタルシスを味わいたいから」の二つだと思います。

一つ目。設定厨と言われるかもしれませんが、あの漫画の物語の進行に伴って「世界」が広がっていく様は大好きで、世界の全容を知るまで読み終えることはないと思ってます。空間的な広さと同時に、時間的な奥行きと人物の多様さが上手く描けていて、50巻まで読んでもまだ飽きない。むしろ世界がどこまで広いか明らかになり始めた、最近になってすこぶる面白くなった側面もありますし。

二つ目。バトルが上手い漫画とは言えないけど、ルフィがクロコダイルを打ち砕く瞬間とか、ゾロが世界一の剣豪に挑むとことか、そういうクライマックス感を描くのはすごく上手い。深く考えなきゃ非常に爽快感があるシーンです。深く考えるとツッコミどこはあるんだけどね。伏線をここぞという場面で明かしたりとか、盛り上げ方、カタルシスの味わわせ方に関してはすげー漫画だと思いますよ。「空虚な精神論」も盛り上げの一つ。そういう表面的なわかりやすさがウケてる原因かと。

失礼な話、漫画的な技量とかで言えば全然な漫画だと思います。スラムダンクの方が絶対上手いよ。「NARUTO」「BLEACH」と比べて別段下手だとは思わないけど*2。王道ファンタジーとしては、これ以上の漫画はないんでないかな。

*1:回想自体が伏線という描き方してるから仕方ないんですけどねー。それにしてもルフィのプロローグは1話で、ゾロの回想は数ページだったんだし、あの頃に戻って欲しい。

*2:誤解なきよう弁解すると、僕はこれらも好きですよ。いろんな意味で。