「公募型合唱団」という形に、21世紀的な趣味の形を見出すなど

珍しく合唱の話なんぞをしてみる。元々僕は合唱部にいたり一般の合唱団に所属していたことがあり、演奏にも鑑賞にもかなり興味を持っているのだが、なぜかこの娯楽は若い愛好者が少ないような気がしてる。まぁオーケストラとかオペラとか、クラシカルな音楽ジャンル全般がそうなのかもしれないけど、もっとみんな気軽に合唱を聴いたらいいのにと思ってる。去年は『TARI TARI』もあったんだしさ。そんな話。

一昨日、「木下牧子 個展」という合唱イベント(コンサート?)に行ってきた。合唱をかじってない人は知らないだろうけど、木下牧子先生と言えばその筋ではめちゃくちゃ有名というか高名というかの作曲家で、僕も合唱をやってた頃には何曲か唄ったことがある。比較的取っつきやすい、少しポップな感じの合唱曲も多く手がけているので、合唱初心者の人でも聴きやすいと思う。おそらく一番有名なのは「ロマンチストの豚」。僕は見てなかったが、フジで放送したことがあるらしく驚き。動画も落ちてるので聴きたい人はググってみたらいいです。あまりよろしいことではないけど。

今回のイベント、ソロの歌唱曲と合唱曲の両方をプログラムしていたり、かなり楽曲のレンジが広かったりと、面白い点が多々あったのだが、中でも興味を惹かれたのが最後の曲「方舟」だ。これを歌っていたのは名門合唱団でもどっかの学校の部活でもなく、Twitterで集まった有志の集団だったらしい。いわば公募型の合唱団。

合唱団は普通、固定型だ。多くはコール・◯◯とか合唱団××といった形で存在し、決まった「合唱指揮者」が率いていて(合唱の指揮をすることでお金をもらうという職業が存在する。「率いて」という表現は正確じゃないかも)、週に1回とか隔週とかで練習をして、定期的にコンクールに出たり、演奏会を開いたりする。入団する場合はだいたいの場合、毎月一定額の団費を払わなくてはならない。と、固定型合唱団というのは当たり前だけど制約が多い。僕も入っていた経験はあるが、仕事で忙しいから一時期だけ「休団」する人もいるし、平日夜の練習となるとほとんど人が集まらない。一応団員は固定メンバーのはずなのだが、そんなわけで演奏会やコンクールに出るたびに、そのときの「パーティ」は違ったりする。まぁ働いている人からすれば、特定の趣味の集団にコンスタントで所属することの難しさはなんとなくわかるだろう。

そこで公募型。名前の通り、あるイベントのために一時的にメンバーを集める合唱団だ。今回のイベントでは、最後の2曲「木馬」と「方舟」を歌うために合唱団supernovaが結成されていた。ちなみに、本番までの練習は3回ほどだったという。果たしてそれが十分な回数なのか、という点は別として、3回ぐらいであればなんとか都合を付けられる、という会社員も多いと思う。特定団体にずっと席を置くとなるとなかなか荷が重いが、自分の暇なときに、そのとき公募を行なっている合唱団に入ってみるというのはかなりハードルが低い。しかも、メンバーの募集がTwitterで行われたというのだからなんというか、すんごい10年代チックな合唱団だ。ボカロ文化で言えば何だろう。コンピアルバム出すとかそういう感じかもしれない。

無論、固定型と違って十分な練習量を確保できないとか、チームワークに難があるといった欠点も考えられる。が、この合唱団supernovaに至っては、関東大会まで出場した実績があるというから驚きだ。公募型だから、なんていう言い訳は通用しそうにない。

冒頭に挙げた合唱アニメ『TARI TARI』についても、実は同様の試みが行われている。7月に開かれる「東京都合唱祭」という大きなイベントがあるのだが、そこで公募型合唱団として出場し、「心の旋律」を歌おうという企画。しかも、これを立ち上げたのは『TARI TARI』の合唱を監修していた方なので、公式といえば公式の企画になるのかもしれない。参加したければまだ間に合いそうなので、興味がある方は門戸を叩いてみても良いのでは。僕は見に行けたら見に行こうと思ってます。

参考:TwiPla - 東京都合唱祭で「心の旋律」を歌おう!

VOCALOIDを通じて、音楽という文化ジャンルが大きく門戸を広げた様は見てきたが、クラシカルな方面にはやっぱりどーしても広がりにくい。でも合唱って、そんな固いものばかりでもなくて。いきものがかりの『YELL』って曲があるけど、あれも元々合唱曲として書かれたものだし、ポップで楽しい音楽も合唱には存在している。歌い手とか、ハモネプとかに興味がある人であれば、たまには合唱イベントに足を運んでみても損はないかと。ちなみに東京都合唱祭は無料ですよ!

少し話がズレたが、公募型合唱団のように「時間が空いたとき、気が向いたときにサクッと楽しめる趣味」というのはもっと増えても良いのではないだろうか。たまにはてなで言及されるが、日本人はどうも趣味というとかなりの高レベルに行かなくてはならないような妙な幻想を抱きがちだ。でも実際問題、極めなくても楽しめればいいという人だっているし、そこまでの時間が取れない人も多い。下手に初学者を締め出してしまうよりは、下手の横好きでもじゃんじゃんウェルカムという姿勢を取った方が、結果として文化の裾野を広げることになるし、そのシーンをもともと好きな人間としてもきっと楽しめるのではないかと思う。特に今はTwitterやら何やらで、集めようと思えばそれなりに人を集められたりもするんだし。