マイ・ベスト物語は暫定で『レ・ミゼラブル』です

レミ、新演出版は初めて

マンガ、アニメ、映画、小説などなど世の中に「物語」は数あれど、自分の中でベストな物語は今のところ暫定で『レ・ミゼラブル』だなぁと思っている。特にミュージカル版のコンパクトかつ重厚にまとまった構成が素晴らしい。自分がこのミュージカルを初めて見たのは高校生の頃で、あのときは日本では珍しいであろうスタンディング・オベーションまで起きてかなりテンションが上がったものだが、それ以来興奮は止んでいない。数えてはいないが、累計で10回近くはもう見ている気がする。

何が好きかってダイナミズムなんだろうなと。ジャン・バルジャンという一人の男を中心に据え、彼が獄中生活から仮釈放、世の中のすべてを憎むような状態から、かの「銀の燭台」のエピソードを経て改心し、歩み始めていくその人生を描いた作品ではある。が、それぞれ別の人物を主役として誂えた5部構成の物語からもわかる通り、この物語では多くの人物にスポットがあたる。タイトルのように、その誰もが悲劇を抱え、七月王政下の不安定な国情に振り回され、それでも強く生きていく姿が描かれる。国と民衆。歴史と現在。富めるものと貧しきもの。そういう対比が物語の根底にはあるが、一方でどんな者であろうと「明日」を、まだ見ぬ未来を望んでいるのだということが明確に打ち出された作品でもある。娘を守って逃げおおせようと願うバルジャン、そのバルジャンを追い、自らの正義を信じるジャベール、互いを思い合うコゼットとマリウス、革命への強い思いを胸にするアンジョルラス、そんなのお構いなしにただ生きることにこだわるテナルディエ夫妻。それらの思いがみるみるうちに積み重なっていき、爆発的な盛り上がりを見せる『One day more!』はこのミュージカル最高の見せ場だと思っていて、自分はだいたいこの曲で終わる第1部のうちに涙を流しきっている。それぞれの思いを上手く拾いながら一つに収束させていく、あの展開の妙は本当に素晴らしい。こんな見事な群像劇があっていいのかと。

物語は誰か一人のためのものではない。誰だって主人公であり、誰もに物語があり、誰もがその先を見据えて生きていく。その姿は千差万別で、バルジャンのような聖人もいれば、正義に固執するジャベールのようなものもいて、どこかふわふわと浮足立ったマリウスもいて。でもそれらを否定することなく、誰も彼もを愛おしんでくれる物語が『レ・ミゼラブル』だ。だからこのミュージカルにおいてはソロももちろん素晴らしいのだが、何より心を打つのは『Do you hear the people sing?』や『One day more!』のような群衆による歌なのだ。


One Day More! - Les Misérables - 10th Anniversary ...

自分が今回見たのは2013年から上演されている新演出版。特に六月暴動で威力を発揮していた廻り舞台がなくなったり、ジャベールのStarsのような一部のシーンの描かれ方がガラリと変わっていたり、相当印象が変わってはいたが、結局のところ軸は変わらず、相変わらず好きな作品だなぁと噛み締めた。良かったところではテナルディエ夫妻の見せ場が明らかに増えていて。最初の登場シーンもちょっとブラックな要素が入りつつ、コミカルでユーモラスな雰囲気がさらに助長されていたし、結婚式のシーンも「それ本当に要るのか?!」というウエディングケーキつまみ食いが追加。哀れで貧しく意地汚いながらも、どこか憎めず、結局は屈することもなく生き続ける彼らの姿は、本当に人間への賞賛というか、生きることへの賛美そのものだと思う。一方でガブローシュの銃弾を拾い集めるシーンが客席からは見えなくなっていたり、『I dreamed a dream』のタイミングが変わったり、バルジャンとコゼットが最初の逃亡でフォーシュルヴァンに救われる箇所がカットされていたり、アンジョルラスが死ぬときに旗を掲げなくなっていたりと、ちょっと残念だなと思う改変も少なくはなかった。ただ、例えばABCカフェのシーンでマリウスと他のメンバーとの立ち位置が明らかに切り離され、マリウスがその場では「浮いた」存在であることがより明確になっていたりだとか、現代的な手法を取り入れてかなりわかりやすい演出になったなとは思う。非常に展開が速く、初見では追いつくのも難しいかもしれない作品なので、その意味では好印象だった。あとあと、ジャベールの入水シーンにはビビリました。以前の演出があまり好みではなかったのでどう変わるか期待はしていたが、予想はできなかった。。。

本当に何度見ても飽きない。一人ひとりが実に生き生きと魅力あふれる人物として描かれているので、それをそのときのキャストがどう演じてくれるのか、どう歌いあげるのかが楽しみで仕方がない。今回だとジャベール役の吉原光夫氏が実に凛とした自分好みのジャベールを演じてくれたことと、エポニーヌを演じた平野綾はやっぱり歌が上手いのだなぁと改めて感心してしまったあたりが印象に残っている。まぁ、ミュージカルを離れてあーやとして見ると、カーテンコールでロングコートをふわっふわたなびかせながら走っている姿が可愛くて仕方なかったですね(真顔) 自分はにわかミュージカルファンだから、そういう楽しみ方もしてますよ、ええ。

なお、今からレ・ミゼラブルを味わうのであれば、もちろんミュージカルもいいんだけど、気軽に楽しめるのはやっぱり2012年の映画版かなと。これはとても良く出来ていたと思います。あと、現在連載中の新井隆広による漫画版も、原作に極めて忠実に作られていながら、映像イメージとしてはミュージカルや2012年版映画の影響も色濃く受けていて、レミゼ愛に溢れた作品として楽しんでます。特に2巻ラストの次巻予告、リトルコゼットのカットは最高でした。映画、マンガ、ミュージカル、どれもオススメ。

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