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そのねこがうたうとき

物語偏愛者の詭弁と戯言

野崎まど『know』――情報のオープン化と知の欲求

サブカル
know (ハヤカワ文庫JA)
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野崎 まど
早川書房
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話題になってるから読もうと思っているうちに気付けば2年経ってた。実際読書期間は1週間もなかったので、はよ読めやという話である。

攻殻機動隊で有名ないわゆるブレイン・マシン・インターフェースもの、人間がネットワークに直接アクセスし、ほぼ無意識的かつディレイなしで情報を取得できるようになった未来。この段階になると自分が直接経験した知識のストックである「脳」と外部記憶である「ネット」がフラットになり、ネットから引き出した情報ですらもknow、知っていると呼べる状態となる。設定自体は見慣れた受け入れやすいものである一方、その行く末がなかなかに予想外で印象的だった。

高度に圧縮された情報は、超高密度の物質と同様に重力崩壊を起こし、ブラックホール化する。死とはすなわち事象の地平面の向こう側へ行くことであると作中では語られる。引力を有する物質と異なり、情報がなぜ重力崩壊に至るかの明確な説明はないが、ブラックホールと情報の関係性についてはすでに議論があったりもする。確かに「情報の喪失」こそが死だとすれば、エデンは事象の地平面を超えた先にあるのかもしれないと思う。

知ルが事象の地平面から帰還する手段とはなんだったのだろう。ただ、少なくとも彼女はきっと、「先生」に会えたのだろうなと思う。先生は「先に行く」といい、彼女は彼の自殺の理由が4日後にはわかると連レルに告げた。ならば先生はエデンで彼女を待っていたと考えるのが良いのだろう。彼女を帰還させるための何かを携えて。2人ははじめからすべてを想定していて、満を持してブラックホールへと飛び込んだ。

この物語は、言うまでもなく現代の延長線上にある。すべての情報のオープン化を是とした「先生」は、自らと娘の人生を賭して死後の世界をオープン化した。だが一方で、曼荼羅や古書といった秘された情報を否定的に描くわけではなく、ネットを介さずにそこへアクセスすることをも描き上げたことこそ、本作における「知る」ことの根底があるように思える。