2022年に良かったコンテンツ

僕が2022年に見た・読んだ・聴いたコンテンツの中での話なので、2022年の新作とは限らず載せている。今年は1つずつ丁寧にエントリーを書くリズムが取り戻せればよいのだが。

panpanya『模型の町』

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表現が難しいが、独特の味わいを持った短編漫画集。panpanya先生の単行本はおそらくすべてが短編集。

panpanya先生の存在は知っていたけれどどことなく敬遠していた節があるのだが、『楽園』のKindleセールのときに買って読んだところドストライクにハマった。Wikipediaには「幻想文学」「ガロ系」などという文字がおどっており、僕もそういう、なんとなくディープでマニアックな雰囲気から手が伸びずにいたのだが、特に近年の作品についてはそういった空気は薄れているきているように思う。また、題材については馴染みやすいものが多い。多いはずである。

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panpanya『魚社会』白泉社 2021 p.165

サービスエリアで「理想のおみやげ」を探して彷徨ううちに、思った以上になんでもあるサービスエリアの奥へ奥へと迷い込み、次第に不思議な空気の一角が見えてくる『おみやげの心得』の一節。「サービスエリアでおみやげを探す」という、誰もが経験したことのあるごく一般的な切り口から、あらぬ方向に話が転がっていき、現実と非現実の境のほうへとどんどん突き進んでいく感覚がpanpanya先生の作品にはある。この親しみやすさと、日常感と、非日常感と、少し不気味で不思議な風景とが混在する世界観が心地良い。たしかに、こうやって言語化してみると「幻想文学」という表現が一番近いのかも知れない。

既刊は年に1冊ずつ出て現在合計9冊。まだ3冊しか購入しておらず、大切に読んでいる。

スマ見『散歩する女の子』

タイトル通り、女の子2人組(時にソロ)が散歩する。この本がスゴい!2022 でも取り上げられたkashmir『ぱらのま』を彷彿とするものもあるが、具体的な地名などが出ることはなく、もっと抽象化された散歩の楽しみがつづられる。例えば「器」の異体字。歩くこと自体よりも、街を歩くこと、歩きながら、いつもの街であろうともそれが興味深い観察の対象になるのだ、という感覚が楽しい。

ちょうど初めての単行本が今月6日に発売される。

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滝口悠生『高架線』

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西武池袋線 東長崎駅近くの古い、本当に古いアパートのある一室の、16年間の住人たちの物語が、一人称を変えながらリレー形式で綴られる長編。大きな筋があるわけではないし、大きな事件が起きるでもないが、淡々と確かに時間と人生を積み重ねていく話であり、そこでは当然ながら、ひとりひとりまったく違う生活が営まれていく。何者でも無い、どこにでもいるであろうその人の人生を解像度高く刻々と描いていくような、そういう文学が最近は愛おしく感じる。

滝口悠生は初だったがすっかりハマってしまい、年末には最新作『水平線』を購入して今読んでいる。硫黄島を舞台として、戦時に生きた青年の物語と、現代において島を訪れる、彼の孫の物語とが交互に描かれていくようで、『高架線』のような時間的な多層性が歴史の物語にどう転嫁されていくのか楽しみにしている。

アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

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昨年のSF、海外文学における話題作であり、映画『オデッセイ』の原作である『火星の人』を書いたアンディ・ウィアーの最新作。

文句なしに面白い。ある男が宇宙船の中でコールドスリープから目覚めたら、周囲に人はおらず、自分自身も記憶を失っていた、というところから始まる物語。自分は誰なのか、ここはどこなのか、なぜ宇宙船に乗っているのか、どういった経緯でコールドスリープに至ったのか。1つ1つの謎を解き明かしながら徐々に記憶を取り戻し、思い出した自らの目的を遂げるために一歩ずつ進んでいく。その過程が仮説と検証をもとに、事実を丁寧に積み重ねていく形で描かれるのは『火星の人』とも似ていて、その様がシンプルに面白いのと同時に、人類が積み重ねた科学を元として、その上に発見と考察を確実に載せていけば、どんな状況でもいつかは希望が見えるのだ、という筋が力強い。とはいえ小難しい話ばかり、というわけでもなく、ハプニングやアクシデントもほどほどに加えながら、決して予定調和というだけではない、というか序盤からは予想もしなかった展開に転がっていくドラマとしての面白さもある。SFを読みやすいエンターテイメントとして仕上げるという点では、世界的ヒットを飛ばした『三体』にも勝るとも劣らないと思う。むしろ筋がシンプルな分、こちらのほうが読みやすいかもしれない。

ライアン・ゴズリング主演での実写化が本当に楽しみ。彼はこの役にピッタリはまり役だと思う。

平田義久『東京は夜』


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Digital Stars 2022 で本人のDJプレイで聴いて以来、昨年は平田義久ばかりを聴いていて、Spotifyのまとめでも、僕が聴いた時間が1番長いアーティストは彼だった。VOCALOIDを使った楽曲なぞ、もはや裾野が広がりきってから長く経つが、意外にもこういったジャジーな空気を程よくまとった曲調は珍しいような気がする。夜に無限ループで聴いていられる。彼の他の楽曲もどれも素晴らしく、チルアウトにちょうどいい。

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特に『東京は夜』については、Adoが初音ミクとのデュエットの形で動画を上げたのを筆頭に、多くのカバーも上がっている。


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『地球外少年少女』

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昨年の映画、というよりはOVAの劇場上映ではあるが、宇宙を舞台にした映像作品というのは、映画館のあの暗闇の中で見るのに限る。特に宇宙を舞台としたパニックムービー、ディザスタームービーの類いは、映画館の箱によって一種アトラクションのような雰囲気を醸す、というのは『Gravity』を見たときからずっと思っている。科学と都市伝説とオカルトのボーダーラインを上手い具合に渡っていく感覚とか、ガジェットの使い方とか、基本的には明るく楽しい路線があるのに、「一歩間違えたら死ぬじゃん」みたいなハードさが常に背後にある感じとかが磯光雄監督作品〜〜〜って感じで、テレビサイズ6話構成というテンポの良さもあり、ノンストップにひたすら面白かった。