アートで「山をひらく」ということ

山形に所用があったので、「ついで」と言っては何なのだが山形ビエンナーレと諸橋近代美術館に行ってきた。

2014-10-05 12.09.04

最近「地方芸術祭」的なイベントがちょっとしたブームの状態にあると思うのだが、そういえばこの手のイベントに行ったのは初めてになるのではないかと思う。横浜トリエンナーレには今年含め3回行ってるし、昨年は神戸ビエンナーレと六甲山ミーツ・アートに行ってるのだが、これらはどちらかと言えば国際芸術祭としての色合いが強い。地方芸術祭はより開催地のローカルな文脈に目が向いていて、地域振興とかそういうのが主目的なのかなと思う。他にも道後オンセナートがあったり国後半島芸術祭なんてのもやってるらしい。本当にちょっとしたブーム状態だ。

ヨコトリや神戸ビエンナーレなどと明確に違うなと思ったのは、その土地に根付いている、その土地と一緒にアートをつくりあげようとしているという点。荒井良二氏の企画では新聞紙面上で読者から五七五を募集し、それに沿った漫画を荒井氏が描いて会場で展示するというインタラクティブな形をとっている。おまけに会期中も会場ではその場で五七五を書けるようになっていて、後から来た人たちはこれまで作られた五七五を自由に閲覧できる。五七五のテーマはいずれも山形の魅力をアピールするようなものになっている上、会場となっていた「山形まなび館」は観光アピールを兼ねた場所でもある。

あるいはspoken words projectの企画。会場になった旧西村写真館は、もともとは写真館だったとはいえ、廃業した今となっては普通の邸宅である。会期中も当然ながら中に居住者の方はいらっしゃるわけで、そのあたりに配慮しながら見て下さいねという注意付き。靴を脱ぎ、まるでおばあちゃんの家に上がるような感覚で会場に入っていくことになったので、ちょっと度肝を抜かれたのが正直なところ。だがこれも、山形の100年近い歴史が染み付いたこの場所でやることに意味があるのだろうな、と思う(写真館の方の親戚だという老人から話を聞いたが、戦後に米兵が写真を撮りに来たりもしていた場所らしい)。

梅佳代氏が撮影した地元の小中学生の写真が展示された場所では、どうも親御さんっぽい方々が見に来ているようなのも見かけたので、地域の人とともに作り上げたアートが、地域の人に見られているという循環ができているのだなと感じた。一方で、西村写真館の来館者名簿をちらと見た限りでは半数近くが県外からの来場者でもあり。このイベントがなければ山形に来ることがなかった、という人もいるだろうと思うのだが、そういう人たちに対してコンセプト通り「山をひらく」ことには成功していたのではないかなと思う。

アートという横文字を構えてしまうと、敷居が高いように感じる人は少なくないと思うが、実際のところコミュニケーションや表現の手段という意味では「言葉」と同じものだと思っている。だから自分にはわからないものだと線を引いてはもったいないし、アートを手がける側としても「開いていく」試みが必要なのではないかな、と。山形ビエンナーレでは見学者に対して「こういう企画やってるんで、一緒にやりましょう!」と手を引いてくれる場面が本当に多かったし、「アートが地域に対してできることはなにか?」という問いに対して一つの答えを示せていたのではないかな、と思う。

諸橋近代美術館

さらに「ついで」という距離ではないのだが、以前から行きたかった諸橋近代美術館にも行けた。美術館名を聞いてもしっくり来ないかもしれないが、外観と「会津磐梯高原 ダリコレクション」というキャッチフレーズを聞くと「ああ!」と納得できる人は多いのではないか。

2014-10-03 13.00.06

TOKYO MXでたびたびCMを見かけるあそこである。なぜ遠く東京のローカル放送で頻繁にCMを流し続けているのかいまいちわからないが、自分のようにわざわざ足を運ぶ人もいるのだろうな、と。

CMで見た通り、自然の中に忽然と立っている綺麗な建物で、ずっとCMで見ていたということもあってなんとなく現実感の湧かない場所だった。でもこれだけダリの作品を集めた美術館というのは国内他にはなかなかないと思う。特に彫刻のコレクションが本当に多くて、ダリがこれだけの彫刻を手がけていたというのが意外でもあった。個人的なベストはこちら。館内、彫刻に限り撮影OKなのです。

2014-10-03 11.23.05

銀山温泉の『藤屋』旅館

あと今回泊まったのが銀山温泉という、大正の風情が残る古い旅館街なのだが、1件だけなんともモダンな建築があるのがすごく気になった。

2014-10-04 20.35.18

あとから調べてみたところ、この『藤屋』旅館、2006年に隈研吾氏の設計でリニューアルしたらしい。腑に落ちた。いろんな意味で。