the world was not enough

物語偏愛者の詭弁と戯言

『The Greatest Showman』 - 圧倒的な力強さを持った「祝祭」


映画『グレイテスト・ショーマン』予告D

圧倒的な歌とダンスの威力でガツンと殴られる、そんなミュージカル映画だった。

残念ながら全体的な構成としては粗が目立つというか、掘り下げが薄い。特にジェニー・リンド周りの話は、必要だったのかすら疑問に思う。バーナムが彼女をアメリカへ呼んだのは史実なので、それをストーリーを転回する装置として入れることはまぁ必要だったのだろうけど、それにしても中盤以降一切出番がなくなるというのは不満が大きかった。劇中でバーナムが彼女から指摘された、自分のためであれば所詮あらゆるものを使い捨てていくのだ、という忠告が、この映画の構成自体にも当てはまっていたように思えてならない。

しかし、自分がミュージカルに対して求めているのは、ストーリーよりも歌でありダンスでありエンターテイメントだ。深く唸らせるような物語が見たいだけであれば、それは普通の映画やストレートプレイでいい。なぜあえてミュージカルを好むのかと言えば、感情の奔流が乗った歌のパワーが好きだからだ。物語の流れが大きな転換点を迎え、キャラクターの感情も頂点に達したときに、それが画面いっぱいの歌と踊りで表現される、あのパワーは、ただの劇でも音楽ライブでも味わえるものじゃない。その点でこの映画は最高、というより最強。

冒頭、真っ先に流れる『The Greatest Show』の時点で、ストーリーも何もまだ存在していないのに、ただただその力強さに涙が出た。あのシーンだけ無限にループして見ていられると思う。同じくPasek and Paulが音楽を手掛けた『LA LA LAND』も、最初に流れる『Another Day of Sun』がひたすらに素晴らしかったのを思い出す。しかしあちらが名も無きモブの歌であった一方で、こちらはやはりヒュー・ジャックマンの力が大きい。『レ・ミゼラブル』でその歌唱力に驚いたのも記憶に新しいが、彼の伸びのある高音、感情へ直に訴えかけてくるようなパワフルな歌声は本当に見事。

レ・ミゼラブル』でヒューが演じたジャン・バルジャンは、孤高の聖人のような人物だったので、彼の歌も「絡み」があるものよりは、自らの迷いや決意を歌い上げたソロが多かった。今回の彼は、P・T・バーナムとして、自らの愛する人を未来へと、Freaksと蔑まれた人々を舞台へと、導いていく、そして喜びを分かち合う、そんな歌が多い。その様がまさに Showman そのもので、彼は劇中の人々を喜ばせ、楽しませ、そして周囲と一体になった歌とダンスによって、我々をも楽しませてくれる。特に自分が好きなのは、彼がカーライルを誘い飲み比べをしながら歌い合うシーン。バーテンダーも一緒に、3人がリズム良くボトルとグラスをカウンター上でやり取りするのが見ていて小気味良い。Pasek and Paul の音楽はもう言うこと無いのだが、今作はこういった「ミュージカル的演出」もめちゃくちゃ上手い。聴いていて楽しく、観ていて楽しい。Twitterでも流れていた*1が、それは監督のマイケル・グレイシーが以前手がけた、このCMを見てもわかると思う。


MICHAEL GRACEY - TOKYO HOTEL - LIPTON

曲として一番好きなのは『This is Me』。バーナムにより一度は舞台上に居場所を見つけた Freaks たちが、バーナムに冷たくあしらわれるようになり、意気消沈するものの、そこから不屈に立ち上がっていくための歌。Keala Settle の鬼気迫る表情も、他の Freaks たちの吠えるような歌とダンスも、劇中の言葉を借りればまさに『人類の祝祭』と呼ぶに相応しい名シーン。それだけに、このときからバーナムに対して抱きつつあった不満の描写が、結局は火事の一件でうやむやになったのは勿体なかった。この多様性の時代に Freaks というテーマを扱うのであれば、もう少し深掘りできるところはあった気がする。『This is Me』から始まる不穏な流れ、物語の「タメ」である部分が、バーナムの改心だけで全部解消してしまったのはちょっとなーと。先述したようにストーリーより歌、ではあるのだが、流れはやはりどうにも平板で、『人類の祝祭』にはなりきれなかった、所詮は『個人の祝祭』に落ち着いてしまったなぁという思いもある。歌もダンスも演出もハイレベルだった、それ故にストーリー構成の一点が本当に悔やまれてしまう。 余談にはなるが、 自分としては、この映画は Freaks という繊細なテーマを正直御しきれてはいないと思っていて、海外での賛否両論はそれが原因なのかなと思ったりもしたのだが、 Rotten Tomatoes を見ると「バーナムこんなやつじゃねーよ」的な話が多いので、どうもそこの問題ではないらしい。バーナムに関しては「バーナム効果」の由来の人、ぐらいのことしか知らないので、史実との差異は自分は気にならなかったのだけど。

改めて評価すると、歌とダンスの力、それを感じたいのであれば最高の1本だった。自分が掲げる「物語にマッチした歌とダンスでぶん殴る」というミュージカルの定義に照らし合わせると、これ以上の映画はなかなか無いし、Greatest Showman というタイトルはこの映画そのものを表していると言っていい。少なくとももう1回は確実に劇場へ見に行くと思う。そしてマイケル・グレイシーについては、あとは脚本の力さえ加われば、数年後に今作を上回る怪物のようなミュージカル映画を間違いなく生み出すと期待している。

グレイテスト・ショーマン(サウンドトラック)

グレイテスト・ショーマン(サウンドトラック)