クリスチャン・ボルタンスキー『Lifetime』
ボルタンスキーを見に行くのは3回目だった。最初が2016年に東京都庭園美術館で行われた『アニミタス ー さざめく亡霊たち』で、2回目が同年開催の瀬戸内国際芸術祭で訪れた「心臓音のアーカイブ」。後者のリハーサルというか予行演習というか予習というか、そういう感覚で前者の個展を見に行った覚えがある。「心臓音のアーカイブ」のインパクトがやはり強い。アーカイブするという行為はそれ自体でアートとしての意味を帯びうるのだと思う。デジタルな環境でいくらでも自身のアーカイブが遺せるようになった時代において、心臓音という最もアナログで、最も生に近いものをアーカイブする。直島の暗い部屋の中で聞く心臓音は、限りなくアノニマスなものである一方で、限りなく誰かが生きている、生きていたことを思い起こさせるものだったと記憶している。
直島での鑑賞体験が強く印象に残っているし、東京都庭園美術館もまた静かな場所であったので、国立新美術館という都会の喧騒の真ん中での鑑賞は、正直違和感も強く覚えた。おまけに閉幕前最後の週末だったので、入場まで20分は並ぶほどの混雑で、誰かの記憶や生や死に寄り添う、という鑑賞体験がなかなか難しくはあったのだが、端のほうでしばらくじっと立ちすくんだり、ベンチで座ったままボーッとしたりして楽しんだ。
竹宮恵子『地球へ…』
- 作者: 竹宮惠子
- 出版社/メーカー: 三栄
- 発売日: 2018/01/18
- メディア: Kindle版
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Kindle で全3冊合計33円というよくわからないセールをやっていて購入。
古いマンガというのは絵柄がつい第一印象受け入れなくて拒否しがちなのだけど、読むとほぼ例外なく名作なので、語り継がれているには訳があるものだと感心する。9月の連休で、都内から富士山へ高速バスで向かったのだが、渋滞にはまって4時間もかかるハメになり、その間に一気に読み切った。貪るように読んだ。
なんと言うのか、全部盛り。フィシス、ジョミー、キースあたりの関係性の物語としても面白いし、SFとしても面白いし、ジョミーの成長譚としても面白い。男女の関係があり、同性間の関係があり、ジョミーとトォニィとの愛憎入り交じるような複雑な関係性に見える世代間の隔絶もあり、そして地球をめぐる様々な思惑もある。文庫たった3巻でよくこれだけ盛り込めたよなというぐらいに内容が濃い。そして結末は救いがありそうで無いようで、数百年にも渡る人種、あるいは生物種間の対立と戦争をそう簡単にはハッピーに着地させねーよというシリアスさがなんともたまらないものがあった。どう考えても33円で読めるのは安すぎた。
アニメ『Dr.STONE』
TVアニメ 「Dr.STONE」 第1話“STONE WORLD”
毎週楽しい。ひたすら楽しい。童心に帰って見られるアニメっていいものだと思う。時代が違えば、ヒロアカとあわせて木曜夕方にテレビ東京でやっていてもおかしくないんじゃないかと思わせる。原作は半端にジャンプ誌上でしか読んでおらず、読み始めた頃にはすでに司帝国との決戦間近というぐらいのあたりだったので、1クール目の内容はほぼ初見だった。それぞれのキャラクターのバックグラウンドをようやく知ることができた。
原作側の稲垣理一郎先生の前作『アイシールド21』がそりゃもうハチャメチャに好きだったんですよ。あれすごい面白くて。アメリカンフットボールという、ルールを知らずとも、誰もがガッチガチのマッチョたちのぶつかり合いを想像するスポーツで、プロトップクラスの走力だけが取り柄のガリガリでチビな高校生主人公が、頭のキレる司令塔の巧みな作戦に指揮されることにより、日本中が注目する選手として活躍していくようになるという筋書き。シンプルな力が支配する世界を、頭脳と知略でくぐり抜けるというあたりは『Dr.STONE』にも一致するところがあり、あのときと似た爽快感を本作にも覚えている。
稲垣先生によれば、石神千空は『アイシールド21』で言うと金剛阿含と同種のキャラクターだという話をしたとどこかで目にしたのだけど*1、パッと浮かぶのは誰にとっても、非力で露悪的な司令塔だった蛭魔妖一のほうだと思う。千空がヒル魔より阿含に近い点があるとすれば、天賦の才と、それに伴う過剰なほどの自信あたりだろうか。まだ理解ができていないが、原作者があえて言及したのであればそこには何か意図がありそうだし、千空の何が阿含と通底しているのかを探りながら見るのは面白いかもしれない。
本作が何より好きなのは科学に対する姿勢。ほぼゼロの状態まで科学文明がリセットされた時点から、確かな科学的知識を元に、幾度も仮説を立てて実験と検証を繰り返すことで、地道ながらも徐々に文明を発達させていくという流れが気持ちいい。ただ知っていればいいだけじゃない、知っていることが、このストーンワールドでどうやって実現できるかを考えて、様々に策を巡らせて「やってみる」というのが科学だなぁと思わせる。
アニメ『彼方のアストラ』
こちらもすごく良いアニメ化だった。1クールで収まるんだろうかと思っていたけれど、若干駆け足な部分も見られつつ、全体にテンポよくまとまっていて違和感はなかった。自分は原作既読だったので、知人に「絶対ネタバレ見るなよ!絶対漫画読むなよ!」と制約をかけて継続視聴させて毎週反応を見るのが面白かったです。漫画だと何週間かに1回ぐらいのペースで「え!?」ってなっていたのが、アニメだとほぼ毎週のように何かしら「え!?」ってなるのがいいよね。「惑星アストラ」のくだりはやっぱりうゾクゾクくる。あの直前にキトリーとザックが結婚だわいわいとかやったりして最高潮に感情移入できているところで、一気に「こいつら一体何者なんだ」って突き放されるのが、言い知れぬ恐怖があった。
個人的に「ぐわー!」となったのが最終回で、地上へメールを送るときに添付した宇宙生活の写真が、これまでエンディングで流れてたカットになっていたのがグッときて。ああ、あれ漫画の巻頭カラーでよくあるようなただのイメージ画像じゃなくて、彼らが本当に撮った写真だったんだ、っていうのがあそこでわかるのがよかった。どんなシリアスな週でも、エンディングで流れるカットはどれも楽しそうだったので。あー、楽しかったんだな、いろいろあったけど、っていうのが、救われる思いがした。
*1:ソースが見つけられていないので、どこで話された内容なのかを把握できていない。