2020年2月 - 宙に参る / ぱらのま / FLOW 超会議 2020 〜アニメ縛りリターンズ〜 他

肋骨凹介『宙に参る 1』

現代で言うセスナ機のレベルで、つまり個人が保有できるレベルで宇宙船が普及した時代の話。病死した夫の遺骨を地球にある義実家へ届けるため、文字通りウィザード級エンジニアの妻・ソラと、その息子・宙二郎(という位置づけの自律思考型ロボット、作中では「リンジン」と呼称される)が共にちょうど49日ぐらいかかる星間飛行へ出る、という話。

と、こんな書き方をしてしまうと非常に大仰な話に聞こえてきそうなのだが、実際のところ宇宙船はセスナ機ぐらい身近になっている世界なので、実際のところ現代で言えばアメリカまで大きな船で行くとかそういうレベルの話、つまり「別になんでもない日常的な移動」の話なのである。設定自体はゴリゴリの SF なのだが、その世界観を不思議なものとしては描かず、あくまで「それが普通」であるとして淡々と描いているのがなんだか心地よく感じる。軌道エレベーターに乗っているときに、コリオリの力について注意を促すアナウンスが見切れたコマにさりげなく書かれているものの、それについて大きな言及がされることはない。長期滞在することになる宇宙船の内部は、もちろんそれに合わせて様々な施設が用意されているのだが、高架下にありそうなおでん屋台もあれば、いったい誰が買っていくのか?と誰もが疑問に思う、あの街の電器屋さんもある。このマンガは実に細かに、SF的な「日常」を描くことに終始している。その目の付け所がすごくそそる。

で、そういう、普通、の、星間長旅のはずだったのだけど、どうも主人公のソラがガチモンのウィザードらしい、というのが徐々に明らかになってくる。そして彼女が持つ「技術」を持ってどうもひと悶着という形になってきそうだな、というところで1巻は終わり。これ、本当にすごいマンガになりそう。

kashmir『ぱらのま 3』

ぱらのま 3 (楽園コミックス)

ぱらのま 3 (楽園コミックス)

未来の宇宙の日常に続いて、今ここにある日常である。フィクションにせよノンフィクションにせよ、何気ない日常の小さな発見をきちんと摘み取ってストーリーに落とし込んでいける作家さんというのは本当に尊いものだなと思う。

このマンガがよいのは「一人鉄道旅じゃないとやらない、できないような旅」をガッツリやっているところ。今回で言えば青春18きっぷというお馴染みのアイテムを使って上越方面へ向かって米沢牛を食べたのち、急にふと思い立って「日本三大牛廻り」ができるではないかと突如近江、松阪へ行ってしまうという豪快っぷり。個人的に今回刺さったのは私鉄の株主優待券消化を意図した千葉県めぐり。不動産会社が作ってしまった AGT ユーカリが丘線 だとか、勝田台駅に残っている明治が運営するハンバーガーチェーン・ サンテオレ 、成田空港に直結した秘境駅である東成田駅など、見てみたいものが多かった。これは近々行けたら行きたい。

FLOW 超会議 2020 〜アニメ縛りリターンズ〜


2018/FLOW 15th Anniversary TOUR 2018「アニメ縛り」&「FLOW THE BEST 〜アニメ縛り〜」緊急発売SPOT

2017年に開催された FLOW のアニメ・ゲームタイアップ曲だけを集めたライブイベント再び。前回ちょっと興味はあったもののチケットは取らなかったのだが、昨年10月の『NARUTO TO BORUTO THE LIVE 2019』の中で初めて FLOW のパフォーマンスを経験して、テンションぶち上がってしまったので今回は取った。ライブでの FLOW 見たことあります? 曲だけでもアガるけど、彼らのパフォーマンスそれに100回ぐらい輪をかける感じでとんでもないですよ。ライブ冒頭のほうで言ってた「全員優勝させます」って言葉に嘘はなかった。

ある程度アニメをかじったことのある人であれば誰であれ1曲は聴いたことがあるであろう FLOW なので最早何も説明する必要はなかろうと思う。自分はこれまでアニソンのイベントって行ったことがないので的を得た表現になっているか自信がないが、この人たちは単独でアニソンのフェスイベントが開けるんだなというツワモノっぷりを味わってきた。おそらくはカバー曲である『1/3の純情な感情』を除いてタイアップ曲はすべて披露して合計2時間半。オープニングには突如としてコードギアスからゼロが乱入して『COLORS』で幕開け。最後は NARUTO の『GO!!!』でテンションを最高潮まで高めてから、同じく NARUTO の『Sign』でそのテンションを少し泣ける方向へ持っていって〆るという、構成だった。なんと言うか、そこそこ長くオタク的なことやっているとこういう機会にも恵まれるんだなぁというか、自分の半生を少しずつ振り返りながら現代まで持ってくるかのようなライブで、とても久しぶりに「オタクやっててよかったなぁ」という気分になれた。そういう気分になっているところへぶちかまされる『Sign』の「伝えにきたよ 傷跡を辿って」だとか「あの痛みが君のことを守ってくれた その痛みがいつも君を守ってるんだ」だとかいう歌詞だったもんで、ああそうか、いろんな作品経由していろんなこと味わってきて、それを辿って今 FLOW が「あの頃」のことを伝えにきてくれてるんやなぁみたいなハチャメチャにエモい気持ちになってしまった。歳を取るとこういう機会が増えて嫌なものだ。

願わくばやはりエウレカセブン・ハイエボリューションの最後は FLOW で〆てもらいたい〜〜〜〜という本当それだけは、それだけはどうにかお願いしますということを何度もうわ言のように唱えながら会場を後にした。

グレッグ・イーガン『ビット・プレイヤー』

イーガン、現代 SF の旗手とされる1人なのだけど残念ながら自分には読めないのだ。それなりに古今東西の様々な SF を読んできたという自負はあるが、理解ができないと思ったのはイーガンだけである。あれは確か『ディアスポラ』だっただろうか。人気のある作家だし、現代 SF は好きな作品も多いからとワクワクしながら読み始めたら、あまりにわからなくて2割も読めなかったという苦い思い出がある。

ならば短編であれば読めるんじゃないか?と今回リベンジを挑んでみたが残念ながらやはり読めなかった。いや、何作かは理解できた。長編ほどに「太刀打ちできない」という感覚はないのだが、いかんせん面白いと思えてこない。これは dis ではないぞと断っておくが、どうも本当に水が合わないらしいということを今回改めて思い知った。こんな作家は他にはいないので、この世にはまったくわかりあえない本というのもあるのかもしれないなぁと、ちょっと惑星ソラリスのような気分で呆けてしまった。

そんな感じなので、『バーナード嬢曰く、』で神林が「みんな本当はイーガンよくわかんないけど読んでる!!」みたいなことを言ってたときにはすごく励まされた。まぁ、彼女はイーガン面白いと思えるらしいけど。。

jizue orchestra Live at Kyoto Concert Hall 2019.10.19

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今月のヘビロテ。

インストゥルメンタルバンド jizue が昨年開いたオーケストラコンサートの録音盤。基本的にはロックのようなスタイルでライブパフォーマンスを行う彼らだけど、その曲群はジャジーな部分も多く、オーケストラとの相性が悪いはずもなく。これは行くべきだったなぁ、という類の後悔を wowaka 逝去後にも繰り返している自分には嘆息するしかない。是非良いヘッドホンで。