
大学3年の頃、つまりは今から16年ぐらい前だったと思うが、ゼミが終わって、教授が食事に連れて行ってくれるそうだと先輩が言っていて、どこに行くのかと聞いたら「チキンライス」と返ってきて、あのケチャップで炒めた洋食の専門店なんてこの辺にあっただろうか、壮年の教授と、大学生数人がぞろぞろ連れ立って食べに行くのもなんだか面白いなと思いながらついていったら、想像とは全然違うアジアンなお店に辿り着き、メニューをめくっても想像とは全然違う、薄く茶色がかったライスと、茹でた鶏肉やキュウリが盛られた料理の写真が並んでいて、注文し、出てきた鶏肉を三種類のソースへ交互に漬けて食べたり、鶏肉を食べ終わったあと、余ったソースをすべてライスにかけて混ぜて食べたりすると殊の外美味くて、それがいわゆる海南鶏飯とかシンガポールチキンライスとか言われるものとの初めての出会いで、こんな美味しいチキンライスがあるんだなと驚くとともに、でもパクチーはやたらにスーーッとするだけで存在価値がよくわからないなと思ったりしていた。
そのときの店舗は、もう何年も前に閉店してしまったけれど、同じ『夢飯(ムーハン)』の創業店にあたる店舗は、西荻窪でまだまだ元気に営業している。あれから16年の間に、海南鶏飯の店舗も都内に増えてきた気がしていて、他にもいろいろ行ってみたし、自分で作ったりもしてみたけれど、最初に味わった夢飯が一番舌に合う気がして離れられない。何より、ここには茹でた鶏をさらに揚げてから出すフライドチキンライスがあり、これが反則のように美味い。行くとだいたいこればかり食べている。赤いチリソースは程よく辛く、黒い中国醤油と白いレモンのたれは、混ぜるとまろやかな塩味がありつつ、とてもサッパリしていて、チリと醤油&レモンを交互に使いながら食べる。気持ちチリソースを多めに食べて、醤油とレモンを残して、最後にご飯にかけて混ぜて平らげる。パクチーは大学を出ても長年苦手なままだったが、去年知人に連れられて行った本格的なタイ料理の店で、自身としては数年分に当たるのではないかと言うぐらいにたくさんのパクチーを食べたところ、それでようやく好んで食べられるようになり、今ではいいアクセントとして感じられている。
大学で出会ってから16年、まるで足繁く通っているかのように書いたがそんなことはなくて、好きなブックカフェであるfuzkueのフランチャイズ店舗が西荻窪に出来たのが僥倖で、それからは夢飯とfuzkueと、さらに荻窪駅近くの八重洲ブックセンターとをハシゴする休日を過ごすようになった。自宅からはそれなりに離れているので、そんなに頻繁には来られないが、あの頃好きだった店がずっと残っていて、大人になってから好きになった店の近くにあるというのが、なんだか奇跡のようで嬉しい。
この日、fuzkueでは島田潤一郎『長い読書』を読んでいた。
