流行りに乗り遅れる

会社で、何人かコロナに罹ったそうだという話を耳にして、同じ日にSNS上でもコロナが流行っているという話を目にしたと思ったら、あれよあれよと周りで増えて行き、気付けば自分の喉にも痛みが走るようになって、ああ、これはひょっとするのかなと思い、とりあえずコンビニにあるルルのドリンク剤を入れて抵抗してみるが、その24時間後に熱は38.0度まで上がった。折しもちょうど連休中、しかも列島が台風のようなひどい天候に見舞われていた頃で、休日診療所までバスで30分かけていくのも煩わしく、幸い喉の症状と発熱ぐらいでそこまでつらくはなかったから、病院へ行くのは休み明けまで待つことにしたけれど、感染の心当たりはあり、まぁ十中八九コロナだろうという確信があった。2日後、抗原検査にて、初めての新型コロナウイルス感染が確定する。見事なぐらいに流行りに乗り遅れる。いや、今はまた流行っているので乗ってはいるのだが。

油断だなぁ、と。あのパンデミックの最中にはどれだけ周りが罹っても、何故か自分だけは罹らなくて、そのうちに5類感染症へ移行されていき、おそらくそのときに「逃げ切れた」という感覚が自分のなかにあった気がする。その後もたびたび流行っているのは知っていたが、どこか軽く見ていたというか、もう気にしなくてもいいか、と思っている自分がいた。でも改めて、感染してからという今考えてももう遅いのだが、Long COVIDにはなりたくないし、血栓リスクが高まるというような話もあるし、やっぱり罹りたくはなかったよなと思う。

症状は発熱と、喉と鼻……いわゆる上気道炎、そして倦怠感。インフルエンザでよくあるような、高熱に伴う全身の痛みはなかったので、それなりに穏やかな気持ちではいられたが、どうにも呼吸が浅くてふらふらするし、頭が全然回らないのが参った。危機感を覚えるほどではないが、常時ぼんやりとした息苦しさはあるので、よもや肺炎になりかけているのではと不安だったが、医者にかかったところそうではないらしく、単純に上気道における空気の通り道が炎症で塞がっていて呼吸しづらいだけのようだった。だから病床で暇ではあるものの、まとまった長い本を読むほどの集中力には至らず、何年も積んだままになっていた「あとで読む」つもりで保存したウェブの記事を崩して過ごした。おかげで40〜50ぐらいは捌けていき、それでもまだ100近くは残ってはいた。最終的には徐々に長い文章も読めるようになっていき、ずっと読みたかったけれど長すぎて読めずにいた、 スゴ本と読書猿が映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』を語り尽くす - はてなニュース をついに読み通せて感慨深かった。

移民の国、アメリカ合衆国は国民のルーツが記された文書(公文書、私的文書問わず)を非常に大切にします。それは人間たちの契約によって生まれた比較的新しい国としてのアイデンティティを守ることを意味します。そこで公共図書館が担う役割の重要性は日本人の予想を超えています。

「図書館」の、アメリカにおける社会的、政治的な意味合いを映画から補足する上で非常に面白かったし、いくつもの本が紹介されていて、さらに読みたい本が増えて行った。映画のほうも、もう6年も前のものになるのでまた見直したくなったが、図書館内を撮った映像を、ナレーションも何もなく3時間繋げた、あの静かな映画を今のコンディションで寝落ちずに見られる気がしなくて、今はやめておいた。なお、最初に見たときは健康体だったが少し寝落ちている。

そんなこんなで、リビングとベッドと、たまにコンビニとを往復するだけで、いつの間にか世間は「暑中」から「残暑」に移り変わっていった。

ほどなくして熱も下がったのだが、今でも味覚障害が残っている。鼻詰まりなどもまったくないと言うのに。話に聞いてはいて、味覚障害とはまったく味がしなくなるものだと思っていたが、実際になってみると何と言うか、味を理解はできるのだが感覚がない、みたいな状態に陥っていて、味が完全にわからないわけでもないから、最初は味覚障害かどうか悩んだ。表現がしづらいのだが、味覚に対する解像度が普段の20%ぐらいまで落ちているような感じがする。甘い、しょっぱい、辛いといったプリミティブな味覚はなんとなくわかるのだけれど、それも口に入れたときの感覚から、情報としての味覚がある、というような具合であって、味のクオリアがなくなってしまった、と言うのか、特に旨味や味の奥深さのようなものをまったく感じなくなっている。わさびを食べても、ツンとするだけであの爽やかな香味を感じないし、試しに味の濃い味噌ラーメンを食べてみたが、塩味はわかるものの味噌なのか醤油なのかもよくわからず、チャーシューは焼き締めたツナを噛んでいるようだった。ミントの香りがするはずの冷感ボディミストを使っても、エタノール臭しか感じない。どうも味覚というか、正確には嗅覚を失っているような気がしている。

チャーシューや野菜がたくさん載った味噌ラーメンの写真。筆者はこれを食べても味を感じない味覚障害に陥っている。
これを食べても、ほぼ味がしないのはちょっと驚く。

まだ発症から1週間ぐらいだし、「後遺症」と呼ぶには早い気がしていて、あと1週間もすれば治ってくれないかなと思っているが、食事への楽しみがなくなっていて思っていたよりつらい。それなりに腹が膨れたら、それ以上食べるのが面倒に感じられてくる。食って大事なんだなと、失って気付く。