
もう1か月近く前になってしまったが、両国国技館へtoeを聴きに行った。
toeはインストゥルメンタルを中心としたポストロックバンドなのだが、ひたすらに演奏がカッコいい。とにかくカッコいい。激しく、荒々しく、情感あふれるような演奏をしながらも、決して無茶苦茶なわけではなく、各々の音はきっちりと噛み合って緻密に丁寧に曲が作られて行くのが本当にいい。繊細な音楽を作り上げるにあたって、そのパフォーマンスまでも繊細である必要はないのだと気付かせてくれる、と言いたいところだが、こんな真似ができるのはtoeぐらいなものじゃないかとも思う。
何度かライブには行っているが、いずれも対バンだったりスリーマンだったりで、実のところワンマンライブはこれがおそらく初めてになった。初めてのワンマンが25周年ライブ。両国国技館という場所も初めてで、ここでライブをやることがあるのは知っていたが、どういう音になるのかまったく知らない。入ると天井が思っていた以上に高く、NHKの相撲中継でいつも観ている範囲はこの空間の本当に極一部、実際には随分と広い場所で相撲が取られていたのだと知る。360度、横方向にも席は広々と据えられていて、やや歪な球のようにも見えるこの場所で、どんな音が鳴るのかとドキドキした。
アリーナクラスの会場でのライブで、開演してからもここまで人がふらふらと歩き回っているライブはこれまで見たことがなかった。別にそれは悪い意味ではまったくなくて、会場ではtoeのオリジナルビールが売られていたので、それを買いに行ったりする人たちがたびたび席を立っては戻ってきて、曲間、ちょっとタイミングが合わなかった人が通路で少し立ち止まりながら聴いていて、みたいな風景が随所で繰り広げられていた。ライブハウスだと始まってからもドリンクを買いに行くことは全然あるけれど、アリーナだと始まったらそもそも売っていないことも多いし、こうはならない。とてつもなく大きな会場だったが、それでもライブハウスにいるような一体感があって楽しい。toeというバンドは、上に貼った動画内のライブでもそうだけど、メンバーが円形になり、互いに向き合いながら演奏するスタイルを取る。だから、それを取り囲むように客席が広がる、国技館という場所はなおさら彼らにマッチしているように思えた。
インスト楽曲が中心だが、ゲストボーカルを迎えることもあり、後半はクラムボンの原田郁子とミトを始め、続々とゲストが姿を見せて、25周年らしい豪華さだった。先の動画の『グッドバイ』には土岐麻子がボーカルを務めないバージョンもあるのだが、今回のアンコールではイントロの途中から彼女がステージに上がってきてくれて、自分としては初めてfeat. 土岐麻子 + 徳澤青弦のバージョンを見られて最高の機会だった。これで終わりだろう、と誰もが思い、帰りかけた人も出始めたところで再び4人が登場して、ダブルアンコールが始まった瞬間にはなんかもう全部が最高という感じで笑ってしまった。
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ところで、インストバンドはtoe以外にも好きなバンドやアーティストがいくつもあって、よく聴いているのだが、聴くようになったきっかけは多分初音ミクだと思う。それまでの人生、ポップスやロックを中心に聴いているとどうしてもボーカル偏重だったところ、toeとは系統がまったく違うが、ElektLyze (Treow) の『Chaining Intention』という楽曲で、楽器が前面に出て激しく鳴るような楽曲の在り方もあるのだと気付き、そのなかでボーカルではあるが人の生声ではない初音ミクの声というのが、歌のようでもあり楽器のようでもあり、その不確かな感じが好きになり、ならばいっそボーカルを取り除いてしまってもいいのではないかと、楽器だけを楽しむような楽曲を探して、インストゥルメンタルに行き着いていったように記憶している。初音ミクからtoeへ辿り着いた人というのは、果たして他にいるんだろうかとは、ずっと思っている。