ふらっと入って、ふらっと見て、ふらっと出て

青空をバックに、青と白の縞模様の建物から成るムービルの外観写真
コナンプッシュがすごい

横浜駅西口をふらふらしていて、ふとムービルのことを思い出した。西口の賑やかな繁華街から、少し外れていくように帷子川を越えて伸びる歩道橋があり、その先にそのまま直結している、年季の入ったビル。壁面に映画の広告がかかっているから映画館なんだとは以前から知っていたが、入ったことはないまま、今年の9月で閉館することを先日知った。

無くなると思うと、現金なもので少し眺めてみたくなる。隣のビックカメラに用があったので、ついでに少し中へ入る。失礼ながら閑散としているものかと勝手に思っていたが、ビルには映画館だけではなく、ホビーショップのイエローサブマリンや、モスバーガーを始めいくつか飲食店も入っていて、連休の中頃ということもあってか、そこそこに人が入っていた。映画館は、「館」というほどまとまった施設ではなく、2階にチケット売り場があって、2階と4階の廊下の傍らに劇場への通路がとびとびで口を開けている。5つのスクリーンは、どれも250を超える座席数があり、思ったよりも大きい。

少し弥次馬をしたかっただけで、何かを見ていく、というつもりはなかったのだが、『かもめ食堂』のリバイバル上映があと30分ぐらいで始まるところだった。大学生のときに、有名映画を片っ端から見ていた一時期があり、そのなかで見たいとは思いつつ、結局見ないままになっている一本で、それから気付けば相当な時が経ち、今年で上映から20年らしい。時間としては余裕があったので、これも何かの縁かと思い、窓口へ向かうことにする。最近はネットで予約して映画を見ることがほとんどだし、名画座なんかにも行かなくなったから、対面で「かもめ食堂、大人1枚」と告げてチケットを買う経験が久しぶりでなんだかこそばゆい気がする。いつもの列の端を選ぶ習慣をそのままに、あまり考えずに席を選んだところ、前の人がいる席ですけど、隣1つずれたほうが見やすいかもしれませんよ、と告げられ、言われるがままにそちらの席にする。入ってみると、各列の間に段差はなく、なだらかな斜面に席が設えられていて、確かにこれだと前の人の体格によってはちょっと見づらかったのかも知れない。お昼時だったので、空腹をごまかすためにポップコーンを買って臨んだ。ドリンクは備え付けの自販機からペットボトルで買えるあたりが、最近にはない牧歌的な感じがした。

映画館は38年もの、映画は20年ものだが、いずれも古くさい感じはあまりしなかった。『かもめ食堂』は冒頭、フィンランドで「かもめ食堂」を営む小林聡美が、記念すべき最初のお客さんとして来店した日本かぶれの青年から「ガッチャマンの歌の歌詞を教えてほしい」と請われるも、全然思い出せなくてモヤモヤとしてしまい、その後ふとカフェで遭遇した、日本人らしき風貌の片桐はいりに思い切って話しかけて、初対面なのにガッチャマンの歌の歌詞を教えてもらう、というなかなかにとんでもない場面から始まる。スマホで調べれば一発では、と思うけれども、この映画当時の2006年は初代iPhoneの登場前年だ。時代を感じる場面はそれぐらいであり、イッタラの食器を並べ、「かもめ」という言葉とフィンランドを連想させる青と白の内装から成る食堂の店内は、北欧ブームを経た現代から見ると、むしろ今っぽくすら感じられる。ロストバゲージをきっかけに、後半から合流するもたいまさこが、ずっと同じ服を着ているわけにもいかないわね、と言って、現地調達で鮮やかなマリメッコの服を次々に着るようになるのが素敵だった。全体としては穏やかな食堂の日々、訪れる客と小林、片桐、もたいのコミュニケーションを軸とした映画だけれど、時に突拍子もないシュールな描写がちらちらと挟まれて、でもそれが作品全体の雰囲気を損なうことなく統一感がもたらされているのがなんだか不思議な作品で、妙に心地よかった。

映画館自体も、いわゆる最新設備ではないことはそれはそうなのだけど、だからと言って映画を見るのに支障があるわけではない。かの有名な立川のシネマシティのように、サブウーファーも搭載された洗練された音響で見る映画も大好きではあるが、常にそれが欲しいというわけでもない。肩肘張らずに、ふらっと入って、ふらっと見て、ふらっと出ていけるような、そういう気軽さがむしろいい。商業施設で映画を見ると言えば、今真っ先に思い浮かぶのは大きなイオンモールだけど、昔は近所のイトーヨーカドーの上で見られたりもした、というより今でも大森のヨーカドーの上にはキネカ大森があるし、蒲田でもアーケード商店街の中にテアトル蒲田と蒲田宝塚が、ほんの数年前まで健在だったのを思い出したりした。

蒲田宝塚、テアトル蒲田の閉館後の外観を撮った写真
閉館3年後の時点では、まだ看板は健在だった。今はどうだろう。