マツキタツヤ+宇佐崎しろ『アクタージュ』 - 君は私のカムパネルラ

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ここ数年ぐらい、週刊少年ジャンプは『HUNTER×HUNTER』が掲載されているときだけ買うという習慣を続けていて、『アクタージュ』は見かけては面白いとは思ってはいたものの「単行本を買う」閾値に至らず、それが一気に閾値を爆発的に超過したのがこの見開きで。なんだこの圧倒的な。なんだこの、え、なにこの、え、これ最近のジャンプで最高の2ページなのでは?? それからだいぶ日は経ったものの、先日既刊全部大人買いして一気に読みました。読み始めると止まらない。『チェンソーマン』連載開始後はまだ買ってないのでアレなんだけど、それ以前の段階においてはジャンプで一番おもしろいんじゃないかなこれという気がしなくもない。単行本買ってるの『ハイキュー!』とハンターぐらいだから断言できないんですけどね。

『アクタージュ』は良い意味でジャンプっぽくなくて、一方でジャンプらしいというアンビバレントな側面を持つマンガだと思っている。俳優、という題材はどう考えてもジャンプっぽくないし、そもそもマンガとしてもチャレンジングな題材で、打ち切られなくて済んだのが本当によかったなと。一方でその演技シーンはどこか少年漫画チックで、筋書きがあるはずなのに筋書きのないその場の感情やアクシデントに振り回されながらの、舞台上やカメラの前で、俳優と俳優とが本気でぶつかり合う、真剣勝負のような熱さがある。ジャンプのバトル漫画ってどれもメンタル面がフォーカスされることが多くて、最終的に信念のぶつかり合いのようになることもあるけれど、その意味においては限りなくバトル漫画に近いようにも見える。おまけに努力、友情、勝利の要素も余すこと無く入ってるんでもう文句なしにジャンプ漫画じゃないですか。

特に冒頭のコマが含まれる『銀河鉄道の夜』編は面白さの天元突破だったんじゃなかろうか。巌裕次郎の死、という劇中の人物にとっても、読者にとっても衝撃的で唐突な展開を、各キャラクターが噛み砕き、飲み下しながら演じていくという展開。彼らが「死」をどう解釈して、それを劇にどう反映していくのか。我々のよく知る『銀河鉄道の夜』という作品を通じてそれが伝えられることで、二重に彼らの喪失感に寄り添いやすくなっているのが本当に上手かったなぁと。阿良也 = ジョバンニが最後、カンパネルラの沈んだ川に背を向けてつぶやく「僕、もう帰らなくちゃ」という台詞は原作には存在しないもので、しかしだからこそ、あえて何故この台詞を吐いたのか。この物語は、親しい人の死を目前にしたジョバンニにとって、阿良也にとって、どんな物語足り得たのかというのが、ありありと浮き彫りになって胸に迫る。

夜凪景は、明らかに『銀河鉄道の夜』編においては主役ではなかった。scene45. でアキラが告げている通り、この舞台を通じて、彼女は夜凪景としてではなく、舞台上の役者や観客に相対する「カンパネルラ」としてしか描かれない。巌裕次郎が自らを託した「死者」として、彼女はアキラに、阿良也に問いかける役割を担う。そのことを、夜凪が今は夜凪ではないということを、抜群の画力で説得するのが冒頭の見開きなんですよね。デスアイランド編までは主に、夜凪による奇行にすら見える振る舞いによって、彼女が常人ではないことを示していたけれど、『銀河鉄道の夜』編に至り、彼女は傍から見るだけで別人になりきっていることがわかるような役者にまで成長した。それを読者へ徹底して示しているのが、この夜凪の内面を一切描かない手法だったのだろう。特に最新6巻は、彼女というより、彼女の演技に舌を巻いたという感覚が大きかった。

とにかく夜凪景が魅力的というか、どんどん魅力的になっていく。当初は何を考えているのかもよくわからなくて、友だちもいなかった彼女が、千世子と心を通わせ、役者としても成長して、意外にも感情を乱すことも多い、きちんと等身大の女子高生だということがわかっていく。特に千世子との関係性はたまんないものがありますね、いろいろと。「初めから君は私のカムパネラじゃん」っていや、もう、なんか、もうね、言葉にならんわ。。。

アクタージュ act-age 6 (ジャンプコミックスDIGITAL)

アクタージュ act-age 6 (ジャンプコミックスDIGITAL)

ジャンプ、自分が読み始めた中学生の頃から続いていた NARUTOBLEACHこち亀などが続けざまに終わったときはかなりショックを受けたし、大丈夫なんだろうかという思いもあったんだけど、『アクタージュ』を筆頭に、今のジャンプはめちゃくちゃおもしろい。読み始めて以来一番おもしろい時期じゃないかとすら誇張なしに思う。『Dr.STONE』や『呪術廻戦』『鬼滅の刃』のような、少し従来とは毛色の違うマンガがきちんと軌道に乗れていて、マンガの幅が大きくなったなぁと。