the world was not enough

物語偏愛者の詭弁と戯言

2019年5月 - ヒト夜の永い夢 / 名探偵ピカチュウ / Tokyo 7th シスターズ EP 4.0 AXiS ほか

Exhalation: Stories (English Edition)

Exhalation: Stories (English Edition)

あなたの人生の物語』に次ぐテッド・チャン待望の第二短編集『Exhalation』が先月ついに発売されましたね。僕は英語力がないから小説を英語で読むことは基本的にない。過去読んだことはあってもペンギン・ブックスぐらいなんだけど、これはもう買おうかなどうしようかなと本気で迷ったぐらいに楽しみにしていました。ただ、どうも早川書房から年内に翻訳が出る?という話をちらほら聞く(どこかの号のSFマガジンに載っていたっぽいんだけど、自分で確かめてないので保証はできないです)ので、だったら待とうかなぁというところ。いやーーーーでも早く読みたい。新作は2本だけということだけど、僕が既作で読んだことあるのが『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』収録の『商人と錬金術師の門』だけなので、実質的に新作だらけという心持ちでワクワクしてます。テッド・チャンの新作をこんなにたくさん読める日がまさか来ようとは。

あと、それなどをきっかけとして早川書房のSF周り担当されている編集者の溝口力丸氏を最近 Twitte でフォローしているのだけど、百合とSFが趣味の方ということで嗜好にマッチしすぎていて人生が薔薇色になったのを感じています。たびたび好きな作品を Twitter に放流されることもあり、桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』 や、最近すごいことになっていると各所で話題になっている「わたモテ」などすっかりハマってしまいました。今月下旬には早川の百合SFフェアというなかなかすごいものも始まるそうで、今後に目が離せない注目の編集者さん、といったところ。

柴田勝家『ヒト夜の永い夢』

ヒト夜の永い夢 (ハヤカワ文庫JA)

ヒト夜の永い夢 (ハヤカワ文庫JA)

粘菌の研究で知られる南方熊楠を主人公に据えるという珍しい形のSF。昭和考幽学会という異端学者が集う団体に参加し、昭和新天皇の即位を祝うために自動人形のお披露目をしようと画策するなかで、南方が粘菌コンピュータによる自律思考する人形の開発に至ってしまい、それが後の二・二六事件に至る大騒動を起こすという、なんとも大胆な筋書きが展開される。同時代に生きていた江戸川乱歩宮沢賢治佐藤春夫といった様々な著名人が次々に物語へ絡んでくる様は『屍者の帝国』を思わせるところもあり、日本社会を転覆させようと企む悪漢に、西村真琴らが自動人形を用いて立ち向かう様は『帝都物語』を思わせもする。学者が主人公の話ではあるが、銃弾は飛び交うし走行する列車や車を舞台にした緊張感のある一触即発の事態も訪れるしという、いずれにも負けぬ劣らぬ一大活劇が繰り広げられるので、令和の始まりに昭和の始まりの大混乱をお祭りのように味わうといった趣で、なんだか読んでいて気分がよかった。

彼らが作ろうとした自動人形は、あくまでパンチカードに人間の各種所作を記録したものを使うことにより、人間と同様の動きを再現させようとしたものに過ぎない。しかし、出来上がった自動人形は全知全能の能力を見せ、末に恐れ多くも天皇機関を名乗る。彼女はなぜ全てを知るに至ったのか。彼女はなぜ「天皇機関」足り得るのか。著者はこういった SF 的な仕掛けを実にドラマチックに語り掛けるように披露していくことに長けていると、デビュー作『ニルヤの島』を読んだときに感じたが、本作でもそういった文章的な技量は健在で、天皇機関に妖艶とも言える魅力を感じさせる。

『名探偵ピカチュウ


『ポケモン 名探偵ピカチュウ』 予告編 (2019年)

見終わった後の感想は脚本が結構荒いかなぁとか、なかなかにご都合な展開だったなぁとかそのあたりで、それって裏を返せば映像的なところへのツッコミがほとんど浮かばなかったということで、この映像はなんでしょうね。ポケモンが実写化されてる!みたいな感慨も実はあんまりなくて、なんか頭の中でわりと思い描いていた、小学生の頃から夢見ていた「ポケモンが実際いたらこんな感じなのかな」ってのがそっくりそのまま流れていたので、だから何か特別な映像という気がしなかったんですよね。それぐらい自然に入り込める映画だった。アニメだと可愛さやカッコよさが強調されるけど、でも実際にまちなかにいるとなれば彼らは動物と同じ生き物で、だからきっと面倒くさいところもあるし、邪魔だったりもするし、どう付き合っていくのか考えながら社会を営んでいかなくてはならない。そういうリアリズムと、実際こんなのいたら迷惑だろというファンタジーが、結構上手い具合に調和していた良い実写化でした。

なので別に泣いたりもしなかったんだけど、エンドロール、あれだけはダメだ。あの原作愛に溢れたエンドロールがあることで、この映画は20年前にプレイしたあのゲームとまったく同じ世界の話なんだっていうのが明確に接続される。僕らが夢見た世界が確かに今目の前にあったんだっていう、そういう感動をもたらしてくれる。あのエンドロールだけでも見る価値はあると思います。

Tokyo 7th シスターズ EPISODE 4.0 AXiS

自分でも原因はよくわからないんだけど、アニメも映画も演劇もミュージカルも小説も嗜むけど、物語として唯一苦手としている形態がノベルゲームで。『Fate/Stay Night』も『ひぐらしのなく頃に』も半端にしかやっていなかったりして、でもその実『MOTHER』シリーズや『サクラ大戦』シリーズのストーリーは好きだったりするのでゲーム全般がダメでもなくって、まぁ詰まるところよくわからないのだけど、そういうわけでナナシスのストーリーも正直ちゃんと読み切ってはいないんですが今回の EPISODE 4.0 は、これは読まなきゃならんでしょと思って読んでいる。だいぶ面白いことになってますね。

かつて一世を風靡した後、突如引退して表舞台からは一切姿を消した伝説のアイドルたるセブンスシスターズ、と、まったく同じ声を持つ6人から成る謎のアイドルユニット AXiS が、明確に主人公たちを「敵」とみなして立ちはだかり、ライブを妨害してはそのかつての伝説を思わせる歌声でファンを奪い去っていくという、これまでのナナシスを思うとどうしちゃったんだというぐらい治安の悪いストーリー。彼女たちの行為は決して看過できる類のものではない、ライバル心などという生易しいものではなくて明確な「悪意」だし、主人公たちが叩きのめされていく展開は見ていてまったく気持ちいいものでもないのだけど、しかし彼女らの歌は困ったことに素晴らしいんですよ。


Tokyo 7th シスターズ 5周年記念 新章「EPISODE 4.0 AXiS」公式MVトレイラー

作中では777☆SISTERSのライブに来ていたはずのファンたちが、突如現れた AXiS のステージに熱狂してしまうというシーンがあって、いやいや君ら冷たすぎないかそれはって思ったりするんだけど、でも一方で AXiS の登場が告知されたとき、そしてこの kz による新曲が披露されたとき、我々も少なからず興奮したはずなんですよ。アイドルという存在を裏付ける定義として、努力によりスターダムを駆け上がる物語性というものがあると思うんだけど、一方で絶対的な歌唱力や楽曲のクオリティを前にすれば、物語性を抜きにしてそちらに心奪われることもある。この構造が現実世界とゲーム内で上手い具合にシンクロしていて、我々はこのゲームを通じて一体何を応援しているのか、というのを突きつけられているような気がしてくる。例えば次の 5th ライブ、ナナシスが歌い始めようとしたところに突如 AXiS が乱入するような演出が、まぁきっとあるだろうなと思うけれど、それが目の前で起きたとき、その場にいるファンは熱狂すると思うんですよね。ゲーム内でいくら胸クソ悪い醜態を AXiS が晒していたとしても。


【Tokyo 7th シスターズ】Le☆S☆Ca 3rdシングル『ミツバチ』Trailer

一方、今月新曲を出すナナシス内のユニット Le☆S☆Ca ですが、吉井彩実の引退により、上杉・ウエバス・キョーコの CV を務めるのが井上ほの花へと交代し、それから初のシングルとなるわけで。明言されてはいないものの、歌詞が「贈る詩」としてすごく心を揺さぶるものになっていて、おまけにここでナナシスでは初めてとなる田淵智也が作曲担当というのにビビり散らしました。イントロからサビのスネアロールに至るまでバッキバキの田淵節で、これが Le☆S☆Ca の持つ爽やかなイメージと、この歌詞とにこの上なくマッチしていて、まだ1フレーズしか公開されていないのにヘビロテしながらボロボロ泣いています。これはライブで聴いたら崩れ落ちて砂になってしまう曲です。

今年はナナシスの底力をガッシガシ感じてます。いや、強い。