the world was not enough

物語偏愛者の詭弁と戯言

2020年12月 - マジカルミライ 2020 / ブルーピリオド / 岸辺露伴は動かない 他

マジカルミライ 2020 in TOKYO

Image from Gyazo

元がバーチャルな存在なので、配信ライブのようなバーチャルなイベントにはうってつけのはずの初音ミクなのだが、しかし元がバーチャルだからこそ、国内では1年に2、3回程度しかない、リアルに「顕現」する機会の重要性が強い、という面もあって。マジカルミライが早々に配信ライブへの転換などを行わず、日程の延期をしてでもリアル開催にこだわっていたのは、そういう理由もあるのだろうな、とは思う。もちろん、リアル開催した場合の企画展による収益性など、様々な要素が絡み合った結果ではあるのだろうが。10年近くにわたり彼女はバーチャルからリアルへの越境を試み、それは COVID-19 の最中でも揺らがなかったが、ここに来てリアルからバーチャル(オンライン)への越境が多く見られるようになってきている、2020年。これが COVID-19 による「やむを得ない選択」としての2020年ではなく、音楽の選択肢が増えた年、ということになったらいい、というようなことを UNISON SQUARE GARDEN「USG 2020 LIVE (in the) HOUSE -Count Down Style-」インタビュー|変わらずに動き続けた2020年を締めくくるユニゾン流“年越し特番” - 音楽ナタリー 特集・インタビュー で読んで、ちょっとハッとした思いがあった。

配信ライブをやってみて「音楽業界にとって面白い武器が手に入ったな」という手応えがすごくあったんですけど、秋には客を入れたライブをやって、そうするとやっぱりそっちに注目が行ってしまうんです。なので、せっかく得た武器を客に忘れてもらわない努力をしないといけないなと。配信ライブのブームは1回去ったと思うんですけど、「こんなに面白いものを忘れちゃダメですよ」と

閑話休題、COVID-19 云々は脇に置いてライブの話だが、『YY』『シャボン』『キミペディア』など、ほとんどの曲目をこの2、3年ぐらいのヒット曲が占める、かなり攻めたセットリストだった。一方では2011年の『完全性コンプレックス』、2010年の『初音ミクの激唱』といった往年も往年というぐらいに懐かしいナンバーを入れてくる振れ幅。特に驚いたのは『Gimme×Gimme』の採用で、確かにこの数年のシーンでは外せない1曲ではあるものの、マジカルミライでペンライトを振ってのりやすい曲とは少々外れてくるテクノ系の曲群はこれまであまり披露されてこなかったので意表を突かれた。そういうのは企画展ステージでどうぞ、と言われている気がなんとなくしていたので、そうか、この手の曲でもあのステージに上がれるのか、と嬉しくなった。


八王子P × Giga「Gimme×Gimme feat. 初音ミク・鏡音リン」

雪ミクの登場。従来、北海道のためのキャラクターであるが故に、マジカルミライには参加しないことが不文律のように語られていたのが雪ミクだったが、今回初めて首都圏でのライブで登場した。もしかしたら複雑な思いを持つ人もいるのかもしれないが、2020年の雪まつりの際には SNOW MIKU LIVE は開催されておらず、2021年もおそらく難しいであろうことを考えると、このタイミングで冬の東京に登場することは良かったんじゃないか、と個人的には思う。 SNOW MIKU LIVE は一度しか経験がないが、あの寒い夜、静かな雪の中で開かれるライブ独特の熱気、ここでしか聴けないテーマソングを聴ける特別な喜びを思い出させた。

来年の日程は10月と11月だという。オリンピックにより8月幕張が使えないとしても、今年と同様に大阪は8月開催(当初予定)が可能だったと思うが、あえて繰り下げたのは少しでも COVID-19 が収束していれば、という思いからなのか、今年11月と12月に開催してみて、何か思うところがあったのか。あるいは2月 SNOW MIKU との兼ね合いもあるのか。いろいろなことを想像させる。8月の幕張に戻ってくる日が、少しでも早く訪れるといい。

山口つばさ『ブルーピリオド』

1話は無料公開されているものを読んだことはあって、「これは絶対ハマってしまう」と確信を得ながら長らく放置していた作品。なんだろう。ハマるのが怖かったのか。なんだろうな。満を持して大人買いしたが、予想通りハマっている。

主人公の八虎は周囲に合わせるのが得意なタイプ、と言っていいかもしれない。あるいは「正解」を辿りやすいタイプというか。勉強はこなせる。しかしガリ勉タイプになるより、ちょっと悪ぶっているほうが「正解」だろうと、夜遊びにも精を出している。しかし本気で遊びほうけたい類いの高校生ではなく、その内実どこか覚めていることを自身でも自覚している。そんな彼が絵画に出会い、初めて客観的な「正解」を演じるのではなく、自分の主観的な感情が絵を通じて伝わっていくことの喜びを知り、美大受験を志すほどにハマっていく。まさにブルーピリオド。青の時代。青い時代。

そういう青春的な描写も然る事ながら、絵を描くために必要な力を、天才的なそれでもなく、根性論でもなく、きちんと理詰めで語っていくスタイルにも好感する。もちろん情熱に比例した練習量がものを言うが、ただ数をこなすだけではなくて、何に気付くべきであり、何を目的として、どう練習しなくてはならないのか、良いとされる絵には、ある程度の「理論」が背景に存在しているのだということを常に主張する作品でもある。プロフェッショナルであるとはどういうことかをひしひしと感じさせる。

ドラマ『岸辺露伴は動かない


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4部まで、アニメだけは見ました、あとは WJ に載っていたころのジョジョはちらちら読んでました、という程度の人間なので、ジョジョファンでもなんでもないのだが、このドラマには惹かれるものがあった。高橋一生への信頼感、小林靖子への信頼感、NHK への信頼感、いろんなものがあったように思う。ちなみに4部までだと4部が一番好き。あの群像劇、日常ドラマ(?)から、少しずつ日常が蝕まれていき、それまで登場したあらゆるキャラクターやシーンが繋がって VS 吉良吉影へとすべてが収束していく展開、たまらんものがある。

ジョジョの「ジョ」の字もスタンドの「ス」の字も出てこないのに、全体に漂うジョジョらしさ。画面全体は美麗でアーティスティックでありながら、ぞわぞわと背筋をくすぐる「何かがおかしい」という感覚。話の筋だけ追うと、終幕後にタモリが出てきてもおかしくない内容だったりもするのだが、それでもこれが確かにジョジョであると感じさせるのは、キャストのファッションや、立ち居振る舞いなどにもこだわった絵作りと、たたみかける台詞回しあってのものだったように思う。特に第2話『くしゃがら』、森山未來との「何が起きているのかよくわからないが一触即発」な二人のやり取りが見てて非常に楽しかった。

年明けの再放送までどっぷり見るほどにハマってしまった本作。原作ストックが多いシリーズではないのだが、今回のように3話構成ぐらいで映画にでもしてもらえないだろうか。まだまだこれだけじゃ物足りない。

朱戸アオ『リウーを待ちながら』

昨年、 COIVID-19 の特集をした WIRED Vol.37 を読んだのだが、その中でナシーム・ニコラス・タレブによる 「このパンデミックはブラック・スワン = 予測不能な自然災害ではない」 という話があった。数年前にビル・ゲイツが TED でも語っていたように、世界的なパンデミックは起こりうる危機であり、まったく予測が不可能なものではなかったのだという。この『リウーを待ちながら』を読むと、確かに感染症の大規模な流行というのは、ある程度社会的なシミュレートはできていたのかもしれない、と思わせる。

『リウー』は、日本の郊外にあるひとつの街の中での肺ペストのアウトブレイクを描いた作品であり、広域なパンデミックに見舞われている現状とは細部が異なるが、今の現実を彷彿とさせる描写がいくつも出てくる。新型インフルエンザ等対策特別措置法による緊急事態宣言の発令、感染者への偏見や差別。それに、2020年に至るまで聞いたこともなかった「濃厚接触者」というワードが、2017年発刊の本作に出現することにドキリとする。 COVID-19 と比較しても、肺ペストは極めて死亡率が高く、ストーリーの行く末は凄惨だ。しかし、それ故に危機感も非常に強い。茹でガエルのごとく、じわじわと苦しめられる COVID-19 と、どちらが対処しやすいものなのか、簡単に比べられるものでもなさそうだ。