the world was not enough

物語偏愛者の詭弁と戯言

2019年12月 - C97 / 息吹 / ぐるぐるてくてく / アリスと蔵六 他

2000年代は宇野常寛ゼロ年代の想像力』のヒットなどもあってそれなりに10年単位での振り返りがあったように思うのだけど、2010年代(テン年代と一部で呼ぶみたいだけど)はあんまりそういう機運がないままサクリと終わってしまって少しおぼつかなさがある。なんで振り返りがなかったんだろうと思うに、「平成の終わり」というよりインパクトの大きなものによって代替されてしまったんではなかろうか。震災と『まどかマギカ』から始まった10年、振り返ってまとめておくことはそれなりに意味があるような気がするけど、自分には残念ながらそこまでの技量はないので誰かお願いしたい。などと他力本願なことをぼんやりと考えている正月。

コミックマーケット 97

Image from Gyazo

1日目と4日目に参加した。ここまでもう何回だろう、結構な回数をガルパンメインで回ってきたけれど今回は『ゆるキャン△』メインにシフトした。『へやキャン』に実写ドラマにと今シーズンは『ゆるキャン△』シーズンでわっくわく。ジャンルごと、作品ごとになんとなく出展サークルの傾向というのがある気がしていて、『ゆるキャン△』はむちゃくちゃデザインがシュッとした装丁の本を出しているところが多い印象を受けた。現地で見つけたのだが凡竜氏の CIQLO というアウトドア雑誌風の1冊がとてもよかった。

あとは企業ブースをちらっと。毎度企業ブースの出展状況を見て「いま何が流行っているのか」をなんとなく察するようにしているんだけど、もう完全に VTuber 全盛期という雰囲気。

しかしコミケの紙袋が年々オシャレになってきているとは感じていたが、今回の紙袋(小)のオシャレ度ハンパなくないです? 少し洒落た雑貨店かなんかに立ち寄ってきましたという顔をしてぶら下げていてもバレなさそうな具合。調子に乗ってこれ持って有楽町歩いたりなどしたけれど実際どう見られていたのかは神のみぞ知る。紙だけに。

テッド・チャン『息吹』

息吹

息吹

超楽しみにしていた1冊。本当に楽しみな本は大切に読んじゃうので全然進まなくて、まだ『商人と錬金術師の門』『息吹』『予期される未来』『オムファロス』の4編を読破して、『ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル』を70%ぐらい読んだところ。全部読み終えたら改めて触れるつもりだけど、現時点でもすでに最高に面白くて、待っていた通りのテッド・チャンだな、ああテッド・チャンだなぁという嬉しさに満ちている。特に『予期される未来』と『オムファロス』の呼応が……まぁ、また今度。

帯屋ミドリ『ぐるぐるてくてく』

ぐるぐるてくてく 1巻 (LINEコミックス)

ぐるぐるてくてく 1巻 (LINEコミックス)

  • 作者:帯屋ミドリ
  • 出版社/メーカー: LINE Digital Frontier
  • 発売日: 2019/03/15
  • メディア: Kindle

最後の最後に2019年ベスト級のマンガに出逢えた。

部員数2人の「散歩部」に属する女子高生がひたすら散歩するマンガ。百合に分類されそうだけれど、百合というほどに深い間柄ではなく、ほんわかと関係性を深めていく様が見られていいです。ガッツリ散歩大好きで、散歩したくて仕方ない先輩の「葵」と、もともと散歩には興味がなくて、ゲームをしているほうが好きだった「歩」の2人。

場所は雑司が谷を中心として主に池袋から早稲田近辺、少し足を伸ばしても現時点では山手線沿線といったところ。著名な場所はあまり出なくて、街角にあるちょっとした建造物のような、徒歩だからこそ目につくスポットを取り上げているのもポイントが高い。山手線界隈って駅周辺の賑わいに目を奪われがちだけど、少し歩いてみると結構街の色が変わって楽しいんだよね。あの辺の土地勘がある人、ない人、いずれにもオススメ。

今井哲也アリスと蔵六 9』

アリスと蔵六(9)【電子限定特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

アリスと蔵六(9)【電子限定特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

2年7か月ぶりの新刊と聞いて、そんなに経っていたのかとびっくり。でも相変わらずちゃんと面白い、わくわくするし、やさしい。蔵六が紗名を見つけ出して、向き合ってしっかりと謝罪するところで、紗名と一緒に泣いてしまった。

今回は蔵六が主役と言っていい1冊だった。紗名を探す中、不意の事故で強く頭をぶつけた彼は、子どもの頃一緒に行動していたリュックの幻を見る。いつも怒ってしまって、どうも上手くいかないんだと、普段は見せない心中を吐露して見せる。このマンガをはじめ、今井哲也作品は終始「子どもが大人に導かれて、世界を知る物語」だと思っているんだけど、蔵六もまたそうして世界を知ってきたのだし、彼もなお、まだその途上にいるのだということを知らしめてくれたことに、じわじわと暖かさを感じた。

伊能高史『ガールズ&パンツァー劇場版 Variante 5』

ガールズ&パンツァー 劇場版Variante 5 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

ガールズ&パンツァー 劇場版Variante 5 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

劇場版コミカライズでありながら、映画をそのまま流していくのではなくて、映画では描かれなかった様々な人物にスポットを当てていく異説ガルパン。相変わらず進みがおかしくて何より。前巻冒頭で大学選抜戦がスタート、というかいわゆる「まったー!」のところが収録され、今巻どこまで進んだかと言えば「トゥルタ!」。映画で言えば10分ぐらいじゃないか……?

Image from Gyazo

トゥルタ!というところで、あんまり原作映画で描かれていない継続の面々のやり取りが見られたのはよかったんだけど、今巻一番目を引いたのはやはり赤星小梅。試合直前に意気込みを喜々として語るシーンの回想から、直後にカールの一撃で瞬殺された絶望の表情を入れるのはなかなかに酷。が、見てる側からしたらやってくれたな!と悶てしまう演出。映画だと彼女について一切アフターフォローなかったからね。みほたちを助けることに並々ならぬ思いがあったであろう彼女のことを掘り下げてくれるの、本当にわかっていて膝を10000回叩いてしまった。

仲谷鳰やがて君になる

やがて君になる(8) (電撃コミックスNEXT)

やがて君になる(8) (電撃コミックスNEXT)

  • 作者:仲谷 鳰
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/11/27
  • メディア: コミック

ラスト2冊積んでいたのを一気読み。いやもうおなかいっぱいで満足満足、というところ。最終8巻冒頭で話としては決着がついていて、その後がエピローグというか、決着がついた後の各々の生活、人生をひたすら描いていたというのがいい。それ、それが読みたかったんだよ、さすがもう全部わかってるじゃないですか、という。

タイトルの意味について。侑を主語に据えて、侑が君 = 透子になった、つまり他者への好意を自覚できるに至った、ということと、もう1つは「透子が透子になる」の意であり、ダブルミーニングであったと考えるのが妥当なんだろう。透子はずっと姉の後を追っていて、言うなれば「透子ではない透子」を演じていた。文化祭の劇を経て、ようやく本当に「透子」になることができた、自分の思いをまっすぐに捉えることができた。最初から擬似的な関係で結ばれていた2人が、ともに成長することで本当の意味で結ばれていくという過程があまりに綺麗でお見事だった。