会社の都合で京都。延泊して観光。京都はよく来るので、言ってはなんだが気を抜けると言うか、そこまでみっちりと予定を考えずにふらりと来ても何とかなるか、と思っている節がある。宇治や貴船のような少し京都駅から遠くに行くなら多少時間の算段もいるけれど、そうでなければ行こうと思ったらパッと行ける、街のコンパクトさに胡坐をかいている。だから観光を始めて最初に向かったのは四条通の大垣書店本店で、京都のガイドブックを現地で漁った。そういう人も多いのかどうか、入ってすぐそういった雑誌が平積みにされている棚があった。しばらく過ごした後で自分がピックアップしたのは、 &Premium 京都、ローカルガイド。 と、 建築知識の京都特集 、 Casa Brutusの京都モダンめぐり 。建築系の2つの雑誌が今年に入ってからいずれも京都を特集しているのは偶然なのか何なのか。建築知識のほうは、平安期から現代に至るまで時代ごとの建築や街のつくりを、すでに無くなったものも含めて現代の視点から詳説していて、一方のCasa Brutusは表題通りに近代建築に特化しており、どちらも面白い。思えば京都には近代建築も多く、行きたいところもいくつかあるのだが、現地に着くと神社仏閣や食に釣られて、忘れていることがしばしばだった。ということで思い出したその脚で、そのまま近くにある新風館に向かう。

元はNTTの局舎だった建物だが、今はホテルと商業施設になっており、とにかく洒落ていた。地下にはアップリンクがあり、旅先で映画を見るというのが自分の密かな「やってみたいこと」のひとつなのだが、同行者もいるなかで、その提案は一旦やめておく。旅先の2時間を映画館に捧げるというのは、ある種の贅沢を覚える。
いわゆる旅行ガイドブックなどに載っている観光地然とした場所ではなく、雑誌からピックした場所へ行くのは謎に緊張感を覚えたりもするのだが、好きでもある。そこは様々な場所から人がわんさかと訪れるというよりは、どちらかと言えば地元の人に対して開かれている場所だったりもするわけで、そういうところを覗かせてもらいたい気持ちと、どうもどうもすみません外からお邪魔しますね、騒がしくはしませんので、と、端っこのほうでこっそりと楽しませていただきますよみたいな遠慮が同居する。翌日は今宮神社に行く予定だったので、そこから徒歩圏内にある、『&Premium』に載っていた蕎麦 木陰で昼食を摂ることにしたが、店があるのは新大宮商店街という本当にローカルな商店街の一画で、ひどく蒸し暑い土曜の昼下がり、観光客の姿はほとんどないように見受けられた。13時ごろに伺って、10席ほどの店内は満席であり、店の前の椅子で2組待ち。商店街を眺めながら待っていると、買い物袋を提げた主婦など地元の人が多いように思えるなか、たまに観光客らしきグループも行き交う。通りすがった原チャリは、足下にサーティーワンのアイスケーキの箱を載せている。

程なくして呼ばれ、注文して出てきた鴨汁そばは繊細なまでに細く、白く、喉越しもいい。七味を軽く振ると、辛味というより山椒の刺激が強く感じられた。モダンな内装で、商店街に面した側は大きく窓が取られているので店内は明るく、落ち着きがあって過ごしやすい。黒板には、酒のあてになりそうな大豆の醤油煮やそばがきなどのメニューがかわいらしい文字で書かれていて、下戸としては、蕎麦屋でちょっと飲む、という過ごし方を羨ましく思う。

退店して、商店街から西へ逸れ、途中コンビニがないので ハーティーライフ かみとも というローカルなスーパーで飲み物を買いつつ、今宮神社へ向かう。かみともでは、つい冷蔵ケースも覗いてしまうが、鱧のパックがいくつも並んでいるところに、単純にも京都を感じてしまった。今宮神社では着いて早々、お参りもまだしていないというのに、東門近くの2店舗であぶり餅を食べ比べる。「かざりや」では何度か食べたことがあったが、向かいの「一和」で食べたことはこれまでなく、初めての食べ比べ。そこまで味が違うものでもないだろうと思っていたが、一口でわかるぐらいに食感も味も違いがあって驚いた。どちらが上、というわけではなく、方向性が違うような味付け。だから競い合うというより、向かいで同じくあぶり餅を出しながら、長らく共存していられるのか。
ほか、下鴨神社や北野天満宮をその日は回る。

さらに翌日は近代建築のほうから、ロームシアター京都。場所は平安神宮のある岡崎公園で、周囲には建物も少なく、広々とした空と、重厚感のあるコンクリートの対比がカッコいい。前川國男が設計し、1960年竣工、2016年に増改築。それから10年。もともと構造的な課題を抱えていたそうだが、完全に壊して別のものを作るのではなく、一部解体して元の部材を活用しながら作り直すという手段を取り、建築物全体は残すという選択が取られた建物。外観は大きく雰囲気が変えられることなく、内装もどこかレトロさを感じる、ヘリンボーンのタイルなどが昔のままになっている。コンサートなどに使われるホールとしての用途がメインの建物だが、一部には蔦屋書店が入り、3階のガレリア部分には椅子の置かれた無料の休憩スペースが広く取られていて、子どもが勉強している姿も見られるなど、日曜の館内は人でごった返していた。

やはり、行きたい場所は尽きない。世界的に有名な神社仏閣もあれば、有名建築家による近代建築もあり、大勢が行き交う都会の一面もあって、川や山などの自然も近い。古都としての魅力はあくまで一側面で、コンパクトな範囲になんでもあってどういう楽しみ方でも受け容れてくれる、なんともずるい街だと思う。