シュノーケル『波風サテライト』

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今年は NARUTO / BORUTO シリーズ 20 周年らしくて。それで先月『NARUTO to BORUTO THE LIVE 2019』というシリーズ総決算みたいなイベントがあって、行ったんですよ。別に特に NARUTO 大好きというわけではなくて単なる付添いで。自分はジャンプ派なので子どもの頃はアニメを見たりしていたし、本誌でも買ったときに必ず読んでいたけれど、最終章と言うべきか、忍界大戦の流れに入ってからは全然読んでなくてあんまり知らないみたいな、まぁそういう半端な状態で、それでも何も楽しめないってわけじゃないだろうという気楽な気持ちで。

何をやるかと言えば声優が出てきてトークや生アフレコによるオリジナルボイスドラマがあったり。主演の竹内順子さんは20年近く前に『HUNTER×HUNTER』ミュージカルを観劇したことがあるので、そのとき以来にお見受けする形だったんだけど、この方がゴン・フリークスを舞台上で演じていたってのがなにかの間違いだったんじゃねーかなっていう気しかしなかった。すっかりもう完全に大御所の風格で、トークも MC ではなくて彼女が取り仕切っている雰囲気が醸し出されててまぁ面白くて。あとサスケ役の杉山紀彰さん、普段からあの甘さと暗さが同居したずるいぐらいのイケメンボイスでこれはずるすぎるでしょみたいなことを思ったり、と話がずれたな。えーと声優が出て、あとファンの投票による名場面ベスト・セレクションみたいのが流されたり、2.5次元ステージのダイジェスト版みたいのがあったり。んで、そして主題歌アーティストによるライブ。今をときめく KANA-BOON とか、個人的に NARUTO 文脈抜きでも好きなフジファブリックとかが出るし、あとなにげにテンション上がるアニソンであれば他の追随を許さない FLOW のステージを初めて見られるのでそのあたりをすごく楽しみにしていたのだけど、予想外に一番テンション上げてしまったのがシュノーケルだったんですよ。


波風サテライト アコースティック @LIVE&喫茶照和

事前は全然ノーマークだったというか、正直名前を聞いても申し訳ないことにあんまり思い出せなくて。でも『波風サテライト』のイントロが始まった瞬間にもう完全に思い出して。あーーーーって。あーーーーーーーーーーーーーってなってしまって。 NARUTO のアニメを見ていた人は動画再生してほしいんだけど思い出しましたかこの曲。覚えてますか。自分は鮮明に覚えている。ちょうど原作の第1部にあたるストーリーが終わって、アニメオリジナルの展開が始まって少し経ったぐらいのころで、アニメオリジナルのシナリオというといろいろお察しでうん、まぁ、という感じはあったし、第1部の最後の展開の陰鬱さみたいな、上がりきらないテンションを引きずっていたところに、この爽やかな曲が清涼剤のように響いていたのを思い出す。そういうのが一気に蘇ってきた。それと同時に、演奏自体もめちゃめちゃにかっこよくて。あの頃、2000年代前半ってストレートな感じの邦楽ロック多かったと思うんですよね。最近は EDM のブームもあったりで複雑な構成の曲も増えているけど、ギターかき鳴らして高らかに歌い上げるロックってやっぱかっけーなと。

1曲歌い終わったあとの MC で、彼らはこの曲に背中を押されたというようなことを話していて。この曲はシュノーケルの 2nd シングルなので、そのタイミングで NARUTO のオープニングを務めたという事実は確かに背中を押しただろうということは間違いなくて。そして今でも、海外のアニメイベントなどで呼ばれてこの曲を歌う機会があるのだという。彼らのライブでこの曲を歌わないことはないのだと言う。なんかもう、そういうの弱いんですよ。そうは言えど13年前の曲ですからね。初動はこの曲が背中押したかもしれないけど、でもそれだけでやってこれた時間の長さでもなかったでしょ、というのは、演奏を聴いていてもわかったし。だけど彼らはこの曲に恩を感じて、13年後にこうして戻ってきた。

少し異なる話をすると、このイベントの客層ってすごく多彩だったんです。作品の性質上女性が多いかなと思ったら体感 6:4 ぐらいかな?というぐらいに男性も多かったし、そして何より親子連れが多かった。幼児から小学生ぐらいの子どもを連れている、30代ぐらいと思われる男女をよく見かけた。ジャンプ漫画では、『ドラゴンボール』が世代交代に失敗した作品として語られることも多い。セル編で悟飯をメインに据えようとしたけど結局うまくいかなくて、アニメ続編の『GT』や『超』に至ってもなお、悟空は主役を張り続けている。それに対して『NARUTO』は世代交代に成功したみたいなんですよね。『NARUTO』を見ていた世代が親になると同時に、作中のナルトたちも親の世代へ年齢が引き上げられた。そして主人公はその子どもたちになり、視聴者層も、かつての視聴者層の子どもたちになった。なので『波風サテライト』を始めとする『NARUTO』時代の曲は、いま現役で見ている人たちへ向けて、というのもそうなのだけど、かつて『NARUTO』を見ていて、今は自分の子どもたちが『BORUTO』を楽しんでいるのを見守っている、大人たちへ向けた曲でもあって。かつて『NARUTO』に育ててもらったバンドから、同じく『NARUTO』に育ててもらった大人たちへ送っている、何かシンパシーのようなものだと考えると、それほど熱心な『NARUTO』ファンだったわけでもない自分も、たしかにあの頃楽しんだアニメーションがあって、それが今に繋がってここにいるんだなーーとか考えると、無限にエモかったんですよね。そんなこと考えて浸っていたらその後サプライズで ASIAN KUNG-FU GENERATION の『遥か彼方』をカバーで歌い始めて、これがまたすんげーハマってて上手くてもう反則だろって感じで1人で転げ回ってました。

好きな作品、気に入っている作品のことは強く意識するし、10年や20年前の作品だって見返したり読み返したりするんだけど、でも子どもの頃の自分を形作っていた作品って、きっとそれだけではないはずで。むしろ意識していないけれど、自分の背中を押してくれていた作品のほうが多いはずで。それを不意に目の前に突きつけられる経験というのはなかなかないのだけど、こんなにも心に来るものだとは思っていなかった。20年前に好きだったあの曲を不意にライブで聴くことって、まぁなかなかないですよ。その意味ですごく貴重だったなと思うし、イベント自体もとてもいいものだったなと感じた。最近は Spotify で『NARUTO』の主題歌を聴くことも多く、アニメ『BORUTO』もその後ちょろちょろと見ているのだけど、子どもの目線で楽しめるのはもちろんとして、親から子へ、というような目線もよく出てきているし、かつて『NARUTO』作中でかなり問題を起こしてきたキャラクターたちがいっぱしの常識を携えて、一歩退いたところから「見守る」ことを結構丁寧に描いていて、世代交代を含みつつ、両世代に目を向けたいい作品になってきているんだなということを知ることが出来た。いい循環の回っている作品世界が作れているのだと思うし、その一端に触れることができたのは、本当に幸運だったなと、そう思う。