ガンダムには、一生触れずに生きていくと思っていた

チネチッタにて
チネチッタにて

最近は公式から「ネタバレNG」とお達しを受ける映画も増えた。SNSだと見るつもりがなくてもネタバレ情報との「出会い頭の事故」になりがちなので理解はするが、ブログのような意識的に見に来なければならないような場所でどこまで配慮するべきか悩ましい。冒頭に「ネタバレを含んでいます」と書けばいいとは思うものの、なんとなく躊躇しつつ、しかし鑑賞してすぐの熱があるうちに書いておきたいという気持ちもあるわけで。まぁ、公開からもう1週間以上経ったしということで、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』、そろそろ書いておこうかなと。

とは言ってみるが書けることはそんなにない。そもそも僕はガンダムに疎い。ガンダムというコンテンツは宇宙世紀とかアナザーとか、ファンのなかで派閥のようなものを感じるし、シリーズも多いし、各シリーズが独立しているようで、実は繋がっているみたいなこともあったりするし、どこから入っていけばいいのかわからず、おまけにどの作品も4クールあって長いではないか、とかそういう感じで、なんとなく、ガンダムには一生触れずに生きていくと思っていた節がある。だから初めて見たガンダムが『水星の魔女』で、流行っているしどうもこれだけ見ても大丈夫らしい、というふわっとした感覚で見て、実際面白かったのだけれど、まぁこれは例外で、自分にとって最初で最後のガンダムかなぁ、なんて思っていた。

なんて思っていたら、「監督 鶴巻和哉」のガンダムである。

鶴巻監督が好きなのだ。旧ガイナックスのアニメを結構追いかけていて、特に好きなのが鶴巻監督や、TRIGGERを立ち上げた今石監督の手がけるアニメだった。外連味。この言葉が褒め言葉なのかわからないけれど、ZIP!で米津玄師が鶴巻監督を絶賛するときにも同じ言葉を使っていたので使っていいことにするけれど、画面の外連味。あとは彼の描くキャラたちの刹那的なダイナミックさとでも言うのか、悩んで苦しんでもひたすら足掻いて、少しずつでも確かに大人になることを受け入れていくようなパワフルさが好きで、ずっと追いかけている。

『エヴァ』って前のめりに深刻になっていく話なんだけど、僕はあんなに深刻じゃなくていい。悩んでてもお菓子は食べるし、面白そうなテレビがやってたら見ちゃう。悩んでるからと言ってずっと部屋の隅で体育座りになっていることはないんだよな、というあたりは『フリクリ』にも反映されていると思います あれから10年……『フリクリ』ブルーレイ化記念、鶴巻和哉監督が語る作品の魅力 | マイナビニュース

しかしエヴァの新劇場版がついに終わって、次の監督作がガンダムだとは思っていなかった。いやあ、ガンダム知らないんだが……と思いつつ、映画館でかかるならば初日から見る一択だった。

で。見せられた映像はのっけから「U.C. 0079」であった。なんとなく、噂は聞いていた。事前公開されていた予告編の映像をもとに、「これはファーストガンダムの別世界線じゃないか?」と考察している向きがあるのだと。いやいや、でも竹さんのキャラデザだとファーストガンダムから地続きの世界線として描きづらくない?と思っていたら、そもそもキャラデザの違う「U.C. 0079」が始まって笑ってしまった。ガンダムは知らない。知らないが。シャアぐらいは知っているわけで。「U.C. 0079」という年号にも覚えはないが、「宇宙世紀」という言葉は知っているわけで。アムロとシャアが地球連邦軍とジオン公国軍にいて、アムロが偶然ガンダムに乗っちゃって、一年戦争とかいう戦役がある、ぐらいの知識で見ても、理解するのに時間はそれほどかからなかった。

率直な感想を言えば悔しさともどかしさだった。ガンダムの原点にある歴史をひっくり返そうという、何やらとんでもないことをしようとしているのはわかるし、シャアがガンダムに乗って、そのガンダムがシャアイメージの赤に塗り替えられたあたりで「式波かよ」とツッコミを入れそうになるなど楽しんではいたが、やはり細部はわからない。きっと知っている人たちは、あのキャラにあの声優が声を当ててる!とか、あのキャラが生きてる!とか、あのシーンがここで……とか、楽しんでいるんだろうなぁと思うと、わからないことに悔しさを覚える。BGMも聴いただけで原作のものをそのまま使っていそうだとわかるそれだし、台詞もオマージュがそれなりにありそうだとも察せられる。だけど、一人だけ竹さんっぽいキャラデザをしているシャリア・ブルというのが元からいたキャラなのか、ジークアクスオリジナルなのかさえわからない。どこからどこまで改変されているのかわからない。知っている人からすれば、この40分の映像では描かれていない細部を想像するだけでも存分に楽しめるんじゃないか。この世界線で別作品も作れるんじゃないか。そういうポテンシャルのある、新しいガンダムの歴史の始まりを作ろうとしているんだろうか。

もしや「Beginning」というサブタイトルだけに、この一年戦争パートだけで映画は終わるんじゃないか?と心配したがそれは杞憂で、後半は予告編で見ていた通りの映像が始まって。ああ、鶴巻さんのアニメで、カラーの画だ、と思った。シン・エヴァ以来にカラーのアニメを映画館で見られて、それだけで満足ではあった。マチュもニャアンも、彼女たちとポメラニアンズとのやりとりも、初めて見るはずなのにどこか懐かしくて、でも初めての物語に連れて行ってくれるワクワク感が確かにあって。90分のうちの後半40分ぐらいしかなかったはずなのに、彼女らのキャラクターも、赤いガンダムの謎も、シャリア・ブルのインパクトも、クランバトルの迫力もすべて見せてくれて、それでいてきちんとまとまっていて見事だった。この画で、この動きで、この演出で、鶴巻監督のテレビアニメが見られるんです……?

ガンダムには、一生触れずに生きていくと思っていた。でも、鶴巻監督で、このプロローグから始まるガンダムですよ。『トップ2!』でアレをやった鶴巻監督ですよ。と、考えると、どう考えてもファーストを見ておいたほうが楽しめるんだよなぁ。よもやファーストガンダムを自分が見る日が来るとは。来るかもしれない。40話ぐらいあるよ……? でも見るかもしれない。そういう人を増やしたくて作っている作品なんだろう。そしてその狙いは、見事に当たっているんじゃないか。たぶん、今のままジークアクスを見ても楽しめる。でもファーストを見たらもっと楽しめそうだ。そのバランス感覚が上手いし、その猶予を与えるためのBeginningだったのだ。

そんな話をしていたら、トップ2!が見たくなってきた。とりあえずトップ2!を見ようと思う。あのラストシーンの興奮に似た何かを、ジークアクスでも求めたくなってしまう。