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そのねこがうたうとき

物語偏愛者の詭弁と戯言

青少年期を育ててくれた「バケモノ」の存在

 
ちょろいオタクなので5〜6回泣きました。世の細田批判をそれほどまともに聞いてないぐらいには細田贔屓なのは自分でもわかっているのだけど、なんというか、好きか嫌いかで言ったら歴代作の中ではさほど上位じゃないはずなのに、心には響いてくる不思議な作品だった。
 
一つには映画の作りが徐々に対象層を広げてきているというのはやっぱあると思っていて、サマーウォーズやおおかみこどもがある程度の変化球であった(いや、おおかみこどもは相当な変化球だったか)のに対し、本作は展開も読みやすく王道な話だ。王道な少年漫画チックな話でどストレートに泣かせに来ていて、それにすっぱり正面からやられたという感じがする。
 
自分が本作全体を通じて強く感じているのはバケモノの不在だ。物理的には山のようなバケモノが出てきてはいるが、しかし彼らがバケモノたる「異形」として扱われる機会が極めて少ない。そもそも人間界と隔たっているのだから仕方ないのかもしれないが、冒頭で熊徹が人間を弟子に取ることについて一悶着があったぐらいで、ありがちな差別、迫害、種族間の対立、侵攻といったテーマはことごとくスルーされており、単なる親子の物語だけがフィーチャーされている。バケモノらしさといえばせいぜいが一郎彦による「人間」九太への怒りぐらいのものだが、そもそも彼自身が人間であるというオチが待つ。最初の登場から「コイツだけネコ耳フードじゃねーか!」とか思ったけど、まさか本当に人間とはな……。
 
んで、この作品のバケモノは文字通りの畏怖すべき存在、異形のものというよりは、大人になる過程で子どもが依拠するフィクショナル/ファンタジックな存在のメタファーに近いように思える。それは例えばさつきとメイにとってのトトロであり、ヒカルにとっての佐為だ。彼(?)らは子どもたちにとってはかけがえの無い存在だが、周囲の大人たちから目にされることはない。 公式サイトで、子どもが実父以外の存在に「育てられる」ことについて細田監督が語っているが、まさにそのような実親からは不可視の親的存在として、バケモノたちは配置されていたように思う。名前を捨てて入り込んでいく通過儀礼としては、千と千尋を思わせもする。
 

子どもというのは親が育てているようでいて、実はあまりそうではなく、もっと沢山の人に育てられているのではないかなという気がするのです。父親のことなんか忘れて、心の師匠みたいな人が現れて、その人の存在が大きくなっていくだろう。そうしたら、父親、つまり僕のことなんて忘れちゃうかもしれない(笑)

 
それは何も特別なものではなく、誰にだってわけのわからない「バケモノ」がいたはずではないかと思う。自分の世代で言えば悟空やルフィがそうであったのだろうし、現実世界でそういった存在に出会えた人もいるのかもしれない。
 
ただ熊徹がトトロと明らかに異なるのは、彼自身がまた不完全であり、成長する存在だということ。単に子どもを導く、おおかみこどもにおけるグレートマザーやサマーウォーズのグレートグランドマザー(この役割、本作でも楓に見られた気はするが…)ではなく、相当に人間くさいバケモノが熊徹だし、また彼と対比されている猪王山ですら、親としては完全ではなかった。だからこの作品は、前作より受け入れやすい。そして多層的に楽しむことができる。すでに27歳である自分は九太以上に、熊徹の視点で物語を眺めることができていた。誰もが不完全であるが故に愛着が湧く物語であり、そしてその不完全さは、最後に親子の一体化という形で補われていく。しかし熊徹が九太の心の剣となるならば、熊徹にとっての心の剣とは、なんだったのだろうな。
 
ところで、俳優をタレントと言っていいのかとか声優はタレントじゃないのかとかいろいろあるので、この言い方は正確ではない気がするが、そういえばいわゆるタレント声優、本職外の声優の起用、細田作品においてはあまりに気にならない場合が多いなと思う。本作でいえば多々良が良い泣きの演技をするもので、ついもらい泣きをしてしまったのだが、エンディングを見ていたら大泉洋だったのでちょっと驚いた。相方を務めるリリー・フランキーも、言われてしまうともう作中に本人が出ているとしか思えないぐらいのマッチングだった。ジブリ、というか宮﨑駿も声優をあまり使わないことで知られていたが、宮崎監督が声質やキャストの人柄、雰囲気などで起用していたのに対し(庵野とか庵野とか庵野とか)、細田監督はきっちり演技まで勘案しているのではないかと思う。
 
ちなみに、個人的に本作に対しては当初それほど惹かれなかったのだが、理由としてキャラデザが貞本さんじゃないってのがあると見終わってから理解した。正確に言えば見終わってから、物販で時かけの貞本絵のグッズを見かけて「あっ」と気付いた。おそらく在庫処分(よく残ってたよな)だと思うけど問答無用で買いました。貞本さん大好きです、ええ。
 
 

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