くどうれいん『わたしを空腹にしないほうがいい』

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食をテーマとした1か月の日記、というか、エッセイというか。

最初に出てくる料理が、適当に冷蔵庫にあったクレソンと三色ピーマンと鶏肉を炒めて、バターをたっぷり使ったガーリックライスに添えたものだった。クレソン。たぶんあれのことだよな、たまに外食で食べるあれだよな、と思うが、若干自信がなくてググる。あれのことであっていた。僕は実家を出て15年ほどになる。その間それなりに自炊もしてきたが、冷蔵庫にクレソンが入っていたことがない。買おうと思ったこともない。普段買い物をしているスーパーを思い出してみるが、どこに置いてあるのかもピンとこない。

会食という言葉もあるように、食はパブリックな行為のようにも捉えがちだが、その実とてもプライベートで、個人の生に深く深く根ざしている。僕の生は、冷蔵庫から適当に食材を取り出したときに、クレソンが出てくるようなものではなかった。三色ピーマンさえ危ういかもしれない。ピーマンは緑色のものが、5個ぐらいビニール袋にパンパンに入ったものしか買ったことがない。パプリカは1個100円を切っていれば彩りのために買うことがあるが、そういえば赤ピーマンや黄ピーマンをあんまり見かけた覚えがない。ピーマンは使い勝手が良くて好きだ。時間がなければ適当にレンチンしてツナや鰹節と和えても一品になるし、肉やきのこと炒めればメインになるし、味噌汁に入れたっていい。自分の料理はつい和風の味付けに偏る。クレソンのあの香りは、あまり自分の献立で必要とはしてこなかった。だからクレソンと三色ピーマンと鶏肉を炒めてガーリックライスに添えるという自炊メニューは、僕の味覚にとって新鮮でおいしそうで、単純な話、それだけでのめりこんで一気に読んでしまった。

食は個人の生に深く根ざしている。クレソンを調理したことがない僕だが、でもホテルオークラのレシピで作るフレンチトーストが、「信じられないほどしゅわしゅわでやわやわになる」のはわかるわかる、と思いながら読む。でも彼女のように、桃と水切りヨーグルトを載せて食べたことはない。彼女の話はそこから、ひねくれ者だったという幼少期の話へと飛んでいく。

あの頃、好きな食べ物を聞かれるとそんなに好きでもないのに「柴漬け」と答えていた。わたしは、ほんとうは桃が好きだった。

縦横無尽だな、と思う。軽やかで、とても鮮やかでいて、おいしそうな1か月だった。

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