スカイレールと、乗り鉄と、そこにある生活の動線と。

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自分が乗り鉄だという自覚はないが、鉄道や公共交通機関に乗るのは好きだ。乗り鉄ではないというか、乗り鉄と呼べるほどではないという感じで、たとえばある鉄道に乗ることを目当てとして遠出をすることは滅多にない。全国9000近い駅へチェックインしていく位置ゲーの『駅メモ』も、もう5年半ほどプレイしているが、アクセスしたことのある駅は2200程度で、端から端まで乗り通した路線も88しかない。ただ、珍しい乗り物などは好きで、近くに行く機会があれば寄り道してでも乗ったりする。乗り物自体を目的とするのはサンライズ出雲/瀬戸ぐらいだろうか。

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ということでスカイレール、4月いっぱいをもって運行が終わってしまった、このタイミングで書いておこうと思った。広島県広島市安芸区の斜面を中心に作られたニュータウンのための交通機関で、モノレールのようなロープウェイのような、独自の機構を採用している。この機構は全国でもここにしかないそうだが、全国でもここにしかない故に維持管理上の問題に突き当たり、2022年に廃止が決まった。その珍しさからたびたびニュースにもなっていたので、見かけた人も多いと思うし、自分もそれで知った口で、機会があれば乗っておきたいと思っていたところ、昨年秋にその機会が訪れ、乗ってきた。

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路線は山の麓から中腹へと登っていくように配されていて、麓側はJR瀬野駅に接続している。瀬野駅までは広島駅から20分なので、「寄り道」の感覚でも行きやすかった。

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意外と、と言うと失礼かもしれないが、乗る段階で驚いたのが、切符がQRコード制だったことだ。飛行機の搭乗時に感覚が近い。ちなみにICカード式の乗車券の導入もSuicaより早く、日本で最初だったらしい。地方の交通系ICを集めるのも地味な趣味なのだが、スカイレールのSKYRAIL PASSは定期券、回数券専用のものとのことだったのもあり、さすがに諦めた。広島電鉄等で使われているPASPYは入手したのだが、こちらも数年後にサービス終了と来ている。

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駅は3つしかなく、端から端まで乗り通してもわずかに5分だ。日本の鉄道でも最大とされる急勾配を上がっていくので、まるでジェットコースターのようだ、と形容する記事もよく見かけるが、時速は遅いし、動きは静かでガタガタするようなこともないので、スリルを覚えるような感じはない。ただ勾配は確かにきつく、5分の間に見る見る標高が上がって行き、景色も徐々に良くなっていく。終点のみどり中央駅まで辿り着くと、辺り一帯に山と空が広がり、見下ろすとニュータウンの家々が見渡せる、軽い登山でも終えたかのような爽快感のある景色が待っていた。

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駅の周辺はニュータウンの公園になっており、ちょうど平日の夕方だったのもあって、子どもたちが遊び回っていた。駅のピロティ部分も、公園の一部かのように遊び場になっていた。乗ってきたスカイレールの車両にも、乗り合わせたのは学校帰りと思われる人たちばかりだったし、これは生活のための路線なのだ、ということを強く感じさせ、少しばつが悪くなる。自分のような観光客は当然ながら異分子で、駅には撮影マナーについての張り紙があった。

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あまり失礼にならないように、警戒されないように、なるべく気配を消しながら、ただ、公園からの景色は本当に気持ちがよくて、駅からスカイレール路線に沿う形で大きな階段が下っていって公園へと繋がっていて、これによって視界が開けた形になっているので、ひたすらに見晴らしがいい。本当ならそれほど長居せずに往復して帰るつもりだったが、しばらく邪魔にならない端の方のベンチに座り、景色を味わいながら佇んでしまった。風も気持ちよく、最高のロケーションだった。この絶景を見に、広島の市街地から30分ほどで来られるとは羨ましくも思える。おそらくは、今後の人生で二度と来ることはないのが惜しい。

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見ていると、大階段を登って、スカイレールへ乗りに来る人にたびたび出くわす。路線が急勾配だったということは、当然ながら住宅地も急斜面に広がっているわけで、麓のJRを使うとして、駅まで歩いて降りるのは一苦労だろうし、ここに住む人たちにとっては間違いなく欠かせない「足」だったのだろうと思う。運行終了後はバスが代替手段になるそうだが、その後の生活がどう変わるのか、までは外野である自分には想像できない。むしろこまめに停車するようになることで、スカイレールより便利にもなるのかもしれない。

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乗り鉄ではない、と冒頭に書いたが、自分の場合は鉄道だけというよりは、公共の場における生活の動線設計全般が好きなのだと思う。以前、一度このブログでも書いたことがあるが、例えばペデストリアンデッキが好きだ。駅を出て、ロータリーのどこにある信号を渡ってどの道へ向かえばいいのかと迷うことなく、周囲のビルや主要な道路へ一直線に結んでくれる、あの効率的な設計が好きだ。同様の理由で地下道も好きだったりする。だからやはり、乗り鉄、というのとはちょっと違う気がする。自分がまったく知らないところで、まったく知らない人たちの、そこにある生活のために、何十年もかけて鉄道路線や道路が造られ、維持されている。それを実感しに行くのが好きなのだと思う。