『2度目のはなればなれ』を見た。90歳の退役軍人が、ノルマンディー上陸作戦の記念式典に出るために、ケアホームを単身抜け出してイギリスからドーバー海峡を渡り、フランスへと「再上陸」する話。人生の終盤において、何を思い返すのか。何を大事にするのか。穏やかでいい映画だった。
本国イギリスでの封切り後、主演のマイケル・ケインが引退を明言したので、日本では彼の引退作という形で宣伝されている。彼と夫婦を演じたグレンダ・ジャクソンにとっての遺作でもある。
海外の映画を見ているとよく出てくるおじいちゃんがマイケル・ケインで、おばあちゃんがマギー・スミスだった。いずれも自分がスクリーンで見始めた頃にはすでにおじいちゃんとおばあちゃん然としていて、ずっとおじいちゃんとおばあちゃんだった。それもそのはずで、お二人とも今年で90歳前後、自分が子どものころの30年前でも60歳だ。人生は長い。映画を見ていて2人が登場すると、なんだかほっとするというか、安心するものがあった。
マギー・スミスは今年、この世を去ってしまった。彼女を初めて見かけたのは、子どもの頃に見た『天使にラブソングを…』の「院長様」役だった。あの頃から厳格だけど優しさのあるおばあさまのイメージが強く、その後言わずと知れたハリー・ポッターシリーズのマクゴナガル先生役で、そのイメージが確固たるものになった。
マイケル・ケインは『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』で見たのが最初のはずだが、印象としてはクリストファー・ノーランの各作品が強い。『TENET』で彼が演じたクロスビー卿が、主人公のスーツを見て「ブルックス・ブラザーズなんか着てるのか」と鼻で嗤うシーンが好きだ。終始穏やかなのだが、目の奥に油断ならないものが光るような役柄が好きだった。もう相当な歳なのに、凜とした声に有無を言わさぬものがあり、彼の一言で画面が締まる感じがする。今回の作品においても、従軍によるPTSDからアルコール依存に陥ったと思われる若者をぴしゃりと諫めるシーンがあり、最後まで彼らしい演技を見られてよかった。
これが最後になるのはやはり寂しい。演技を見ていると90歳前後とは思えないし、また何かの映画で、ふらりと高齢の英国紳士として出てくることを期待したくなってしまう。