the world was not enough

物語偏愛者の詭弁と戯言

初音ミク『マジカルミライ2018』 - ひっくり返す11年目、グリーンライツが彩る未来

2014年以来の大阪東京2か所開催となった今回、せっかくなので両方に参加することにしてみた。大阪、過去にはUSJ目的で行ったのとオフ会目的で行ったのの2回しか記憶になくて、実のところあんまりちゃんと観光したこともなかったのだけど、エネルギッシュな街だなというのが感想のすべて。1泊して2日目をマジカルミライにあてて、1日目は通天閣となんばマルイのコラボイベントと、ついでに西のオタク街こと日本橋に足を運んだ。通天閣とその周囲に広がる新世界、そして日本橋から少し出歩いたときにぶつかった千日前あたりのゴチャッと感、昭和の頃の発展がそのままストップしたようなノスタルジーと、一方少し遠くに目を向ければ近代的なビルが立ち並んでいるような、あの感覚は人口過密地帯である東京でもあまり味わえない*1通天閣のコラボエリアはテッカテカ光るミラーボール✗爆音ボカロ曲BGM✗のくはしさんのイラストという、これぞまさに大阪っぽいと東の人間が勝手に考えるローカルコラボが見られてとても満足でした。来年も2か所開催というのは素直に嬉しい。東京ばっかりというのは、あんまり望まない。

大阪の話もこれぐらいにしておいて、今回のライブで自分が特に印象に残ったのは鏡音である。10周年イヤーであることはもちろんわかっていたし、テーマソングたる『劣等上等』も「おー、鏡音らしい元気でいい曲だなー」とのんきに聴いてはいたのだが、しかしここまで、ここまで全力で踊り狂わせる10周年になるとは思ってもいなくてビックリした。間にリンレンそれぞれのソロ曲を挟んでもいいところを、それをあえてせずに2人でフロアを盛り上げる曲ばかりを並べての計5曲ぶっ通しの独壇場。ミクやルカとのコラボも入れねぇ、この約30分だけは自分たちだけのステージなんだという気概と、鏡音らしい破天荒さを感じた。間に挿入する、唯一のバラードチックな曲が『ジェミニ』というのも憎いし、前半にミクが繰り出してきたのが懐かしい曲の数々だっただけに、鏡音タイム入りの2曲が『劣等上等』からの『ロキ』というこの1年の間に産まれた最新曲のコンボという対照も映えていた。

自分は鏡音派ではないというか、そこまでこの2人の楽曲を愛でることをしてきてはいなかったのだが、10年を経て今更虜にされてしまった感がある。小柄な2人が舞台上、所狭しと動き回って歌い踊るパフォーマンスはとてもパワフルだしかわいいし、2人のコンビネーションで魅せるというのは、初音ミクや他のボカロにはできない彼らならではの魅力だ。こんなとんでもないもの見せるんだったら、言っといてよ最初っから、とはちょっと思った。ペンライトシート、2人の分を用意して待ちたかったけど、そんな暇は取れず無念。しかし無事にフロアは盛り上がりました。


【初音ミク】グリーンライツ・セレナーデ / Greenlights Serenade【オリジナルMV】

全体を通しては、10年を一区切りとして、次の10年に向かう最初の1年目、というところを意識した曲目に思えた。テーマソング『グリーンライツ・セレナーデ』がとにかく「強い」曲で、昨年米津玄師という、いまやこの国のミュージックシーン全体におけるビッグネームが痛烈な爪痕を残した後で、 Omoi の2人はよくこんな傑作を作れたなと圧倒された。この曲は初音ミクの曲でも、VOCALOIDシーンの曲でもなく、紛うことなき「マジカルミライ」のテーマソングだった。初音ミクに感化された創作の波がマジカルミライという場をつくり、そしてマジカルミライの場に感化された人々が、未来のクリエイターとして歩き出す循環。そこまでは曲と MV にしっかり詰め込まれていたわけだが、それが最後には未来のマジカルミライに繋がるのだということを、ライブの場で高らかに歌い上げるのはずるいとしか言いようがないでしょう。もう随所で話題になってはいるが、この曲の最後のフレーズ「虹色の輝き 間近で見たいから」という部分は、以前から「マジカルミライから」に空耳すると話題になっていたが、ライブにおいては「マジカルミライへと」に歌詞が変更されて、それを歌い上げるミクのバックに「マジカルミライ2018」のロゴが現れるという演出だった。空耳は意図的だったのだ。

今年のセトリは、1曲目がアンコールでおなじみになっている『Hand in Hand』というちょっとした変化球だったが、なぜここにこの曲を配したのか、という意味は、このラストの「マジカルミライ」ロゴという演出で明らかになったように思える。2015年から長く定番となっていたアンコール曲を最初の曲とすることで、ある意味で10周年イヤーを一度締めくくり、このライブから先はまた別の10年が紡がれていくという節目と言うのだろうか。そして『グリーンライツ・セレナーデ』は今年のエンディングではあったが、これから先のマジカルミライの在り方を歌うオープニングのように作用している。クリエイターが盛り上げたシーンが、マジカルミライという場をここまで大きくしてきたわけだが、その舞台で初音ミクが、逆にクリエイターを掻き立てる側に回る。この循環こそがこのシーンの強みだと思うし、それをこれからも続けていこうというこの演出は、11年目を飾るに相応しすぎて胸が熱くなった。

そしてもう1曲。昨年の『砂の惑星』に対しては多くのアンサーソングが出てきたが、その中でも自分が特に好きだった『リバースユニバース』が採用されたのは嬉しかった。ここ数年のヒットメーカーであるナユタン星人が、明確に『砂の惑星』をすっぱりと切り捨てる歌詞を入れつつ、でも「ワンダーランド」も含めた過去作に対するリスペクトをこめた曲を作った、というのが、『砂の惑星』ショックで界隈がざわざわしていた当時、希望のように思えたことを覚えている。現ボカロシーンの先端にいるPが繰り出す「ひっくり返す」という宣言がとても力強く、それをライブの場で聴けてよかった。自分が今回泣いたのはこの曲とラストです。3回見て3回とも泣いた。

一方でもはや懐かしい類の曲を、今後どう扱っていくかは悩みの種でもあるのだろうと思う。今年は初音ミクについては「懐かし曲タイム」とも言える時間帯があったりはしたが、それは古くからのファンへの配慮であるにしても、 MEIKO がまた『Nostalogic』を歌うというのは、好きな曲ではあるしやむを得ないとはいえ、どうにかならないかなぁという思いもある。まぁ今回は『on the rocks』が(やっと!嬉しい!)採用されて、見せ場としては増えたものの。

以上、11年目という難しい年を、新たな名曲と構成の妙で魅せてくれたなぁというのが今年の感想。最後に個人的な話を添えておくと、ボカロとの付き合い方がまた少し変わってきた、変えたくなってきたような気がしている。2008年から数年間は熱狂的に追い、それから数年間は少し熱は冷めていたのだが、昨年の『砂の惑星』が煽った危機感と、今年の『グリーンライツ・セレナーデ』が促した未来から、もう少しこのシーンにまた積極的に絡みたくなってきた。あるいは今回、現地で見知らぬファンの方とお話しさせてもらう機会がたまたま多かったり、小さな子たちが訪れているのをたくさん見たりして、このシーンはまだまだ今後も続いていくべきだという思いが強くなってきた。オタクがシーンの衰退を上から目線で嘆くのは簡単なのだが、現にこのシーンには、ここに希望を持ってくれている子どももたくさんいるのだ。ならばしたり顔などせず、きちっとその火を絶やさずに継いでいくのが、古いファンの責任になりつつあるのではないか。そんなことを考えて、最近ちょっといろいろ始めてみたりしている。いつかそれが日の目を見られるほどのものになればいいと願っている。

三十にもなって、こんなに胸を熱くできるものとは思わなかった。『グリーンライツ・セレナーデ』という素晴らしい曲と出会えたことにも、今年また、この大きなイベントを開催できたシーン全体にも、深く感謝したい。

*1:東京での西新宿のあたりは古い街と高層ビルが共存しているが、往々にして古い街は少し元気がない。大阪はいずれも超元気という違いが見える。