the world was not enough

物語偏愛者の詭弁と戯言

『宇宙よりも遠い場所』 - まっすぐに進むための物語

なんだか粒揃いだった2018年1月期のアニメのなかで、『宇宙よりも遠い場所』がここまで自分にとって重要な作品になるとは思っていなかったし、世間的にこれほどの評価を受けるというのも予想外だった。そしてそれは嬉しい予想外だった。とても良い作品に出会えた。

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もともと南極と女子高生、というあまり見ない設定から、視聴するつもりではいたのだけど、決定的に見ることを決めさせたのはSTAGE 1でのしらせのこの笑顔だった。自分自身の中にある確固とした目的のために、周りからの眼など気にせず孤軍奮闘する奇抜な少女。そういう役回りのキャラは、何かしら人を突き放したり、寄せ付けなかったりする側面があるというのが定番ではあるが、しらせは違った。彼女はキマリを完全に拒むのではなくて、自分の「変わった」目的についてこようとする「変わった」女の子にであれば、こんな笑みを浮かべてしまうのだ。母の死という重い理由とは裏腹な、このイタズラめいた笑顔についていけば、きっと面白いものが見られそうだと思った。そしてその予感は見事に当たった。

しらせのみならず、このアニメのメイン4人はいずれも一筋縄ではいかない性格なのだけど、でも誰もが「拒む」ことや「否定する」ことを互いにはしない。それが良かったのだと思う。結月は友だちがいなかった頃をこじらせて、友だち関係の誓約書を迫るような不思議なところがあるが、他の3人は、そんな彼女へきちんと向き合う。キマリはSTAGE 5で、親友であるはずのめぐっちゃんからあまりに辛辣な扱いを受けるが、それでも「一緒に行こう」という言葉を口にする。

自分が特筆したいのは、日向としらせの関係だ。日向は高校に行っていない、集団を嫌うキャラクターで、その理由が明かされたのがSTAGE 11だった。友だちだと思っていた相手に裏切りのような扱いを受け、それをずっと赦せずにいる。そんな日向に対して、しらせは「赦すべきだ」と正論を諭すのではなく、傷ついた事実と、そこからすでに立ち直っているということと、でも、それでも赦すことはできないのだということを、日向に代わって「友だち」へぶちまける。

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古典的な「良いシーン」ではないのかもしれない。日向がぼやいた通り、他者の立場に立って赦して、過去を頑張って飲み込んで、また新しい関係へとここから踏み出すのが、もしかしたら大人になることなのだろうし、少なくとも謝罪をするつもりはある相手を、赦さないままでいるのは「性格が悪い」と言うこともできる。でも、あえて「赦さない」という醜さと同時に、自分の傷をきちんと受け止めて、そして相手にも「罪を自覚しろ」と言い放つこと。それってあるいは、表面上赦すことで、曖昧な美談としてしまうよりも過酷で尊いことなんじゃないかとハッとする。日向は自分の負い目を誤魔化そうとしてしまうところがあるが、しらせは日向を否定しない。曲がってしまいそうになる日向を、ただまっすぐに肯定する。

しらせ自身のラストにも、このシーンの選択は跳ね返ってきていて、彼女の旅路が「母親に会う」ことを終着点としたものだったのか、それとも自分自身が南極に行きたいのか、それがSTAGE 12で明らかになっていく。

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「人に委ねるなってことですか」 「そう。けど、ずっとそうしてきたんじゃないの。あなたは」

いや、明らかになるというのは正確ではなくて、南極に降り立ったとき、しらせの口から出た言葉が母に対するそれではなく、「ざまーみろ!」だった時点で答えは出ていたのだ。きっかけは母の背中を追うことだったのかもしれないが、その旅はすでに母の手を離れ、しらせ自身の意志によるものだった。それをもう一度自覚し直して、彼女は母に会いに行く。その先で待っていたのが、ああいう形での「母」との再会だというのは、彼女自身も視聴者も、誰も予想すらしなかったのではなかろうか。それまでの描写や伏線や、様々なものが見事に折り重なった、あの静かな再会のシーンは、思い出すだけでもう泣けてきてしまう。

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これは13話1クールという長いようで短いような期間を通じて、女子高生が前へと進む物語であり、人間が前に進むための物語だった。砕氷艦が氷を砕きながら進んでいくように。一つひとつ、自分の弱点や、過去や、軋轢を乗り越えて、まっすぐに。