東京建築祭と、「野良・建築祭」と、阿闍梨餅と。

東京建築祭 という、東京都内の建築にスポットを当てたイベントが今年から始まり、行ってきた。よくあるような、どこかの会場で各種建築の資料や写真などを展示するイベントではなく、実際の建築物を見て回る、土日2日間開催の周遊型イベントになる。なかなか聞いたことがない。おまけに対象のエリアは日本橋周辺、丸の内〜大手町周辺、築地周辺の3エリアと来ている。日本の近代化を早くから支えた場所であり、明治から昭和に建てられた見ごたえのある近代建築が数多く残っている、どころか現役でも使われていたりする。そして再開発により現代建築も入り交じっているのが、またいい。

それなりに注目を集めているイベントのようで、有料のガイドツアープログラムはいずれもわりと早いうちに売り切れていた。18件の建造物における「特別公開」は当日現地に行けば参加できるということで、今回はそれを回ることに。どれぐらい混むだろうか。初開催とあって予想がつかないものの、Twitterを見ていると平日に行われた先行公開のイベントでもそこそこ混雑しているらしい。これは舐めずに開幕の10時ジャストに行こう、それでもかなり並ぶようなら諦めよう、という気持ちで向かった。

三越のファサード
三越本店

土曜、10時、初手、いきなり出鼻をくじかれた。悪いのは全面的に自分で、勝手に鼻をくじいているだけだが。三越本店6階にある三越劇場を見ようと思って向かったが、閉まっている。あれえ、と思ってプログラムを見ると、こちらは先行公開のみで土日はやっていなかった。やっちまった、と思いつつ、三越本店はそれはそれで見ごたえのある建築だ。まあこれはこれでいいかと、天女像を中心にバシバシ写真を撮った。

天女像
天女像

三越本店 G階段
三越本店 G階段

三越地階売場 地下鉄入口
三越地階売場 地下鉄入口

いつ来てもここは圧倒されるし、百貨店という場所が本当に特別だった時代、ここに来た人々がどんな思いでこの建物を見上げたのかと想像する。今でも僕にとっては百貨店はやっぱり特別なものだという感覚はあるし、三越本店なんてTシャツとスニーカーじゃ怒られそうな気が今でもしている。ここに開店凸する機会は、たぶんこれが生涯最初で最後だろうなと思った。

いきなり番外の話をしたが、その後はしっかりと建築祭をまわった。まずは三越本店の隣にある三井本館。人がたくさんいるので、上げられる写真はエレベーターぐらいだ。

三井本館 エレベーター階数表示
三井本館 エレベーター階数表示

三井本館 エレベーター内部
三井本館 エレベーター内部

向かいには日銀本店
向かいには日銀本店

そこから少し歩いて丸石ビルディング。

ロマネスクな丸石ビルディングのファサード
ロマネスクな丸石ビルディングのファサード

さらに兜町のほうへと歩いて日証館。

このあたりは高速道路高架下も美しい
このあたりは高速道路高架下も美しい

日証館は1928年竣工の証券ビル
日証館は1928年竣工の証券ビル

メールシュート付き私設郵便箱、ポストとしては現役
メールシュート付き私設郵便箱、ポストとしては現役

道中では速達用の「青ポスト」を見かける。COREDO室町の近く。

青ポスト
青ポストは全国にもうわずかしかない

ここで力尽き、ちゃんぽん丸由で皿うどんをバリバリと食べた。もしかしたらリンガーハット以外で皿うどんを食べるのは初めてだったかもしれない。大盛りではないのだが、なんかでかくない?と思いつつ完食、回復。

皿うどん
皿うどん

これで実は目的をもう果たしてしまってはいた。日本橋周辺の古典主義的な建築が好きなのだが、丸の内〜大手町や築地のほうはそこまで興味を惹かれていなかった。「好きじゃない」ということではない、むしろ丸の内の古いオフィスビル群は大好物だが、今回「特別公開」とされているのは、普段から一般公開されている明治生命館や、商業ビルとしても普通に入れる国際ビルや新東京ビルだ(どうも館内での資料展示が「特別公開」にあたるらしかったが、このあたり、ちょっと案内がわかりにくく思った)。だから今日見る必要もないであろう、などと思いつつ、結局さらさらと見学した。

新東京ビル
新東京ビル

国際ビルヂング
国際ビルヂング

国際ビルヂング階段 フォントがかわいい
国際ビルヂング階段 フォントがかわいい

営団地下鉄の頃から使われていそう
営団地下鉄の頃から使われていそう

思えば国際ビルヂングは、帝国劇場もろともまもなく閉館してしまう。ミュージカルというものを初めて見たのが、帝国劇場での『レ・ミゼラブル』だった。最後にもう一度見ておきたいが、チケットが取れるだろうか。帝劇はちょうど、通りかかったときに『Endless SHOCK』の開演だったようで、少し賑わっていた。

帝国劇場
帝国劇場

国際ビルと新東京ビルは普通に入れたが、明治生命館は入口から列ができて、角を折れてさらに1ブロック分ぐらい並んでいて、さすがに断念。ここは丸の内マイプラザと呼ばれる高層ビルに、文化財である明治生命館が内包されるような構造になっていて、ビル内から明治生命館の外観を見ることができる、不思議な構造になっている。内部の見学はしたことがないので、またいつか来てみたい(以下写真は、2年半前に撮影したもの)。

丸の内マイプラザ内から見た明治生命館(21年12月)
丸の内マイプラザ内から見た明治生命館(21年12月)

明治生命館に入れなかったので、隣の東京會舘や岸本ビルヂングを撮って1日目は終了。このエリア、やはり野良・建築祭ができるというか、建築祭の対象ではない近隣の建築も見ごたえがあるのがいい。

岸本ビルヂング
岸本ビルヂング

東京會舘
東京會舘

2日目はどうしようか悩んだが、乗りかかった船ということで、残った築地エリアなどにも行くことにした。築地本願寺で、普段公開されていない講堂や貴賓室が見られるというのと、新橋にある堀ビルの公開を目当てに。

築地本願寺 講堂
築地本願寺 講堂

築地本願寺は伊東忠太の建築ということで、一度見てみたかったのだが何となく機会がなかった。彼の建築と言えば「妖怪」が棲んでいる。同じく彼が手がけた、一橋大学の兼松講堂や湯島聖堂にも妖怪が棲んでいる。ガーゴイルに近いものなのだろうが、何の生物を表しているのかわからない独特の姿をしていたり、意外なところに隠れていたりするので、これを探すのが好きだ。結局特別公開エリアよりも、妖怪を探してうろうろとしてしまった。

妖怪のいる階段
妖怪のいる階段

別角度から妖怪
別角度から妖怪

こんなところにも妖怪
こんなところにも妖怪

妖怪と言うより狛犬?(反対側と阿吽になっている)
妖怪と言うより狛犬?(反対側と阿吽になっている)

堀ビルは1932年竣工のオフィスビルであり、国の登録有形文化財にも指定されている。新橋駅と内幸町駅の間、外堀通りと赤レンガ通りが交差するところという非常に目立つ場所にあるのだが、これまで目に留めていなかった。現在はシェアオフィスになっており、個人でも入ろうと思えば入れるが、オフィス利用のために入ってバシバシ写真を撮るわけにもいかないだろうし、良い機会だった。

堀ビル
堀ビル

堀ビル 内部
堀ビル 内部

前日の疲れも残っていたので、2日目はこれで終わり。日比谷図書文化館まで移動して、地下のプロントでランチにして撤退した。最近は大盛りを控えていたはずだが、思わず大盛りを頼むぐらいには疲れていた。

正面からの日比谷図書文化館は本当に美しい
正面からの日比谷図書文化館は本当に美しい

ナポリタンが食べたかったけど、期間限定だったらしい
期間限定のナポリタンが食べたかったけど、もう終わってしまったようだった

改めて、このエリアは見るべき建築が多すぎるな、と思う。東京建築祭のために歩きながらも、野良・建築祭が捗ってしまう。何気なく歩いている街の中にも、見るべき建築が数多くある。丸の内や日本橋なら有名なものも多いが、実はそのオフィスビルはもう半世紀以上そこにあるのだ、などは言われなければ気付かなかったりもする。先に触れた国際ビルヂングのように、再開発でなくなってしまうビルも当然あるが、それらが渾然一体となって織りなしている町並みも好きだ、と、日比谷公園から見える帝国ホテルとミッドタウン日比谷のコントラストを見て思った。

東京ミッドタウン日比谷と帝国ホテル
東京ミッドタウン日比谷と帝国ホテル

日比谷公会堂にも、そういえば入ったことがない
日比谷公会堂にも、そういえば入ったことがない

次に機会があったら、ガイドツアーに申し込んでみたい。建築の細かい意匠などは、やはり知識がないと見逃してしまいそうだし、今回ガイドツアーでしか入れない場所も多くあったようだ。あとは他の街でも出来るだろう。横浜とか神戸とかどうだろうか、と思ったら 神戸では昨年ひと足早くやっていた らしい。これは行きたかったなぁ……。

京銘菓 阿闍梨餅
京銘菓 阿闍梨餅

日本橋のイベントだといいところは、満月の阿闍梨餅を三越 or 高島屋で買って帰れること。夕方に行って売り切れ、というのを最近2連続で食らっていたが、昼に行ったら山と積まれていて最高だった。すぐに質が落ちちゃうから、買いだめるわけにもいかないのが悩ましい。