『次元大介の墓標』は誰にリーチするのか

墓標。

話題の『次元大介の墓標』、2日目に新宿バルト9で見てきたのでネタバレ無しで感想書きます。

前作にあたる『峰不二子という女』が原作のハードボイルドなテイスト(といっても俺は原作読んだことないが)に近いものとして仕上がったと言われる一方、ストーリーの展開や不二子というキャラクターの描かれ方には少々「アクが強い」印象を否めなかったと個人的には思ってるんだけど、今作についてはその「アク」の強さはあまりないです。ストーリーとしてはむしろ我々の見慣れた昨今のアニメ版ルパンに近いというか、コミカルさこそないものの、馴染みやすい「盗み」と「戦い」を軸に据えた「よく知っているルパン」として仕上がっていたかと。

とはいえ『峰不二子』で築いた質の高い作画、演出は健在なわけで、なんとも贅沢な1時間ではありました。特に今回は次元が主役ということで、言わずもがな銃撃戦が重要な要素ともなっていますが、これは本当にアホほどカッコ良かった。銃。昨今の少年漫画で軽々しく扱われることも多くなってきたけど、本来の下手すれば「一撃必殺」であるという恐ろしさがよく伝わってくる重厚な演出で、「殺される」ことへの緊張感が作品全体を常に覆っていたように思える。あと、アダルト要素としてなのか、タバコの表現がもうたまらなかった。あんなにカッコ良くタバコを描けるアニメ、というか映像作品がしばらくなかったように思う。

まぁそういうクオリティの高さを見せつけられると、じゃあこの作品は一体どこへリーチできるのかというところも気になってくるのですが。クオリティの高いアニメーション作品が必ずしも一般的な人気を得られるわけではないことはもはや自明ですけど、「ルパン」というブランドをもってしても、この作品が「大ヒット」という陽の目を見るとはどうにも思えないのです。そもそもそういった波及の仕方を狙ってはいないのかもしれないけれど、このレベルの作品をいわゆる「アニメファン」しか楽しめないのだとしたら、なんとももったいないなぁというのが率直な思い。オールドルパンファンも楽しめる要素が盛り込まれているだけに。

この作品を劇場公開という形にしたのは、一種波及度合いを高めるための方策だったのだろうなとは思います。ガンダムUC攻殻ARISEと同様、単なるOVAの先行ロードショーだと言われればそれまでですが、『次元』について言えば「なぜあえて劇場で大々的に公開したのか」という問いに対するアンサーが作中に含まれています。それは製作陣の決意にも似たものであって、その思いがきちんと広がってくれればいいなぁというか、俺としては素晴らしいラストだったなぁ、と。

余談ですが、バルト9で見ただけあって、予告編がアニメ関連ばかりでなかなか楽しかったです。特に『進撃の巨人』劇場版予告として、テレビ11話の、あの立体機動シーンがスクリーンで見れたの最高でした。あとハリウッド版ゴジラのワンシーンで、渡辺謙が「We call him... "ゴジラ"」って語るシーンも激しくツボ。「ガッズィーラ」じゃなくてちゃんと「ゴジラ」って言ってるんですよ。ハリウッドが作成して、設定もこれまでのゴジラとはもちろん異なるのだけど、でもこの作品は、この怪物は日本という国に根ざしているのだということを、監督が意識していることが伝わるシーンでした。見たい!