the world was not enough

物語偏愛者の詭弁と戯言

2020年5月 - 夜を乗りこなす / あらゐけいいち短編 / Tales from the loop 他

サカナクション『#夜を乗りこなす』

新型コロナウイルスの流行以来、家でも楽しめるようにとコンテンツを無償公開する動きが相次いでいる。アーティストによっては、今は売上が苦しくてむしろお金が欲しいときだろうにとも思うのだが、そんな中で無償で、という動きには敬服する他無い。もちろん、ある程度体力があって出来ていることではあるし、それが将来的な集客を見込める故ではある、にしても。

サカナクションについて言えば、『#夜を乗りこなす』と題して、4月下旬頃からほぼ毎週過去のライブ映像を YouTube で配信している。毎回欠かさず見ているわけではないが、週末の夜、一番落ち着ける時間帯に、ふと YouTube を流すとサカナクションのライブが見られる、というのはとても贅沢に感じていて、たびたび時間があればテレビで流している。この難局における、不安であろう「夜」を「乗り越える」のではなく、「乗りこなす」という語彙がサカナクションらしい。夜はいつまで続くかわからないのだから、乗り越えることを目指すよりも、どうにかして乗りこなしていかなくてはならないのだろうと思う。

僕がサカナクションの曲で一番好きなのが『ミュージック』なのだが、今のこの状況と、どこか不思議にシンクロしているように思えている。


サカナクション / ミュージック -BEST ALBUM「魚図鑑」(3/28release)-

あらゐけいいち短編


あらゐけいいち短編「01邂逅」


あらゐけいいち短編「02捨鉢」

突如として YouTube に投下されたあらゐけいいち新作アニメ。以前『日常』をアニメ化した京アニが噛んでいるわけではなく、どうもあらゐ先生自身による自主制作らしい。え?なんで?突然??と最初は頭が追いつかなかったが、今になって『CITY』ではなく『日常』キャラを用いた新作アニメが見られるというだけで嬉しいので、あまり気にせずニコニコと楽しんでいる。

アニメ『日常』はとにかく傑作だった。ハルヒや Key 作品で評価を確立した京アニが、「知名度の高い」「いわゆる美少女が出てくるような」原作から離れて、ちょっと試行錯誤を始めたのかな、と個人的に捉えている時期が10年代前半で、この頃は『日常』の他にも、小説原作である『氷菓』、女性向け作品にあたる『Free!』といった作品が生まれていた。『日常』はまさかのシュール系ギャグマンガという選択だったわけだが、あらゐ先生の漫画に見られる独特のスピード感とテンポ感を見事に映像に落とし込んでいて、それでいて京アニらしくキャラクターの可愛さも表現できていて、京アニはこんなアニメも作れるのかと、当時はだいぶシビレたものである。

今回のあらゐ版アニメはさすがに声優が声を当てているわけではないが、逆にそれがシュールなあらゐ作品の持ち味をより深めてもいる。このシリーズ、続いていくことを期待したい。

『Tales from the Loop』


Tales From the Loop | Official Trailer

先月のエントリー で言及した、Simon Stålenhag による同名作のドラマ。地下にあるとされる、大規模な粒子加速器「ループ」と、その周辺の街で発生する、自律的に動作するロボットや、人間の人格を入れ替えてしまう謎の球体装置といった、不可思議な出来事や機械を描いていくオムニバスとなっている。まだ完走はしておらず、時間が空いたときにポツポツと見ている。

過去の話である、という体であり、確かにどこかノスタルジアを感じさせる田舎の情景でありながら、現代でもおよそ実現不可能な超常的な技術が混ざり合う、独特な世界観が妙に心地良い。描かれるドラマも、SF的な大掛かりな仕掛けではなく、極めて個人的で繊細な、他者には触れられたくないような子供時代の経験、という趣の話が多い。殺風景な田舎の景色に、数メートルはある無骨なロボットが居座る、その構図だけでも刺さる人には刺さるだろう。

施川ユウキバーナード嬢曰く。 5』

気付けばもう5巻。最初の頃は神林などが披露する「読書家あるあるネタ」と、そのあるあるネタを自覚的に実行することで、形から読書家ぶろうとする町田さわ子という構図のギャグ漫画のテイストが強かったが、いつの間にか町田さわ子(なんかフルネームで呼びたくなる)も普通に読書家らしくなってきた。それと同時になんだか怒って怒られてという関係だった気がする神林と町田さわ子の関係も徐々に安定して、そういう別の楽しみ方もできるようになっている。今回で言えば、ブラッドベリの短編に言及した『花火』の雰囲気にぐっときた。

この漫画の「読書家あるある」はすごく頷けてかつ、ニッチなものが多い。「本屋に行く、前に駅の小さな本屋にもつい寄ってしまう贅沢」だとか、妙にこちらの心をくすぐってくるわけで、本屋に行きたい、本を読みたいという思いが強くなってしまう。

くわばらたもつ『あなたと私の周波数』

COMIC 百合姫に掲載されていた短編マンガを集めた上に、描き下ろし作品を加え、計5本を集めた1冊。

「関係性のオタク」という、わかるようでわからないような言葉が最近よく使われているが、この1冊を好むような人はきっと「関係性のオタク」なのだろうな、と思う。実のところ、ハッキリとした関係性の決着を見る作品は多くなく、いずれもある2人の関係性の始まり、あるいは終わりへと至る気配といった、変化の兆しを描いて終わっていく。しかしだからこそ良いのだと。さくりと読めるが、余韻は確かに残していくストーリーテリングがとても上手かった。

青山剛昌名探偵コナン vs 黒ずくめの男達』

一昨年の『名探偵コナン ゼロの執行人』をうっかり劇場で見てしまって以来、コナンという作品のことがなんとなく気になってしまっていた。『ゼロの執行人』でメインを張ったトリプルフェイスこと安室透について調べる過程で知ったのだが、コナン vs 黒の組織という1対1の対立のように思っていた本作は、安室が公安警察所属であるように、現在では様々な組織と人々の思惑が複雑に絡んだ群像劇の様相を呈しているらしいと。FBI が登場しているぐらいは知っていたが、今やその他に CIA 、MI6 まで登場しており、それぞれが単純に黒の組織だけを追いかけているわけでもなく、それぞれに騙し騙され、あるいは時に対立し、一触即発の展開を交えつつ物語が進んでいるのだということを理解した。それはもしかしたらなかなかに面白そうなんじゃないか、とは思うものの、さすがに90巻近い原作を集める気もしていなかったところで目にしたのが、この『vs 黒ずくめの男達』総集編シリーズだった。

全3巻で、いわゆる安室透の正体が判明する「バーボン編」までが収録されている。バーボン編の次にあたる長編シリーズが、現在展開中の「ラム編」らしいので、実質これでほぼ最新まで追いつけると言っていいんじゃないだろうか(いいのか?)。非常に駆け足ではあったが、安室透、赤井秀一の2人や、黒の組織各メンバーのこと、そして先述の各組織の立ち位置などは掴めたので、必要最低限の満足は出来たというところ。残念ながら延期になっている劇場版最新作『緋色の弾丸』も実はわりと楽しみにしている。同作でメインとなる「赤井ファミリー」については、この総集編だけでは把握しきれなかったので、もしかしたらまた別のなにかを読む、かもしれない。