the world was not enough

物語偏愛者の詭弁と戯言

2020年8月 - 主に漫画を読んでいた

最近マンガを読む頻度が増えたような気がするのは Stay home 故か。小説も読んではいる(今は飛浩隆『零號琴』を楽しく読んでいる)んだけど、個人的に小説って「よし、読むぞ〜〜〜」ってちょっと構える必要があって、その気力がないけれど何か読みたい夜とか、ふいとマンガに手が伸びる。小説は本当に気に入っていたらハードカバーで買いたいし、そうじゃないものもできれば紙で持っていたくなるが、マンガはサッと取りあえず読むには Kindle でもいい。そんな感じで、マンガを読むハードルが著しく低い、というのがある。

ということで、今月はマンガにフォーカスしていくつか書いてみたい。

田素弘『紛争でしたら八田まで』

世界中のトラブルに呼ばれては、地政学的観点から問題解決を行う、地政学リスクコンサルタントを主人公とした非常に珍しいマンガ。類似するものを挙げるなら『MASTER キートン』だろうか。現実の2020年頃の世界情勢を下地としているので、臨場感を覚える一方、扱うのはミャンマータンザニアといった、馴染みのない人も多いであろう国々の問題であり、新鮮な知識としても楽しめる。

tweet を失ってしまったが、この漫画を紹介していた人は伊藤計劃に絡めた話をしていた。おそらく想定されていた作品は『虐殺器官』だろう。あれは自分の世界の平和のために、自分より遠い世界へ戦争を押しつけるという筋書きだった。計劃より以前、911 より8年も前に、同様の指摘は『機動警察パトレイバー2 the movie』でも成されていた。戦争を国外へ「外注」することにより、戦後日本は仮初めの平和を保ってきていたのだと。

この漫画が描く世界で、外注された戦争の一部を、確かに垣間見ることができるのかもしれない。

池澤真『異世界美少女受肉おじさんと』

自分も年を食っていると感じるのは「異世界転生」ものをほぼまったくと言っていいほど見てもいないし読んでもいないこと。これを言うと本当に年食った感じになってしまうのだが、あらすじ読んでもどれも似たり寄ったりに見えてしまうのだ。あと、ビジュアルのある作品だとついつい可愛い方向に傾きたくなる、というのもある。若い男性が異世界無双しててもあんまり惹かれない。いや、本当に時代に取り残されている。

それはさておき。ということでこれは初めて自ら手に取った「異世界転生」作品なのかもしれない。なんで買ったかと言えば「ジャケ買い」だ。表紙の金髪けもみみ美少女が可愛かったからに尽きる。そしてこれは、この美少女が「可愛い」ことに翻弄されるマンガであり、俺も翻弄されている。

タイトル通り、彼(女)の正体は32歳のおじさん。幼馴染みの32歳おじさん2人が異世界転生するのだが、1人が自分の思い臨む美少女の姿になってしまい、互いに互いの容姿に惹かれてしまうというおっさん同士のラブコメである。一応基本プロットは世界を救う勇者として女神に異世界召喚されているのだが、そんなわけでギャグマンガだ。一応冒険とバトルもあるが、美少女になってしまった橘がほぼ無敵のテンプテーション能力を持ち、もう一方の神宮寺は戦闘力最強という具合なのでひたすらサクサク進む。ほぼ全ページにわたってボケとツッコミとノリとかわいさだけで突き進んでいるんじゃないかという、ひたすらにテンポの良いマンガで楽しい。

ちなみにタイトルは「異世界」と書いて「ファンタジー」と読み、橘は「バ美肉」ならぬ「ファ美肉」おじさんということになっている。現在の流行と、おっさんの欲望とが良い具合にミックスされているのを感じる。

荒井小豆『醤油を借りにいくだけで死ぬことがある世界の中級サバイバルガイド』

タイトルが何言っているのかと言うと、要するにゾンビものである。住民のほとんどがゾンビと化した街の中に取り残された、吉竹、浅井、馬場の3人の女性によるサバイバル日常。とはいえいわゆるアポカリプスの状態ではなく、ゾンビ化に侵されているのは彼女らが住むこの街だけだ。封鎖された街の外では文明は平常通りで、彼女らは機能停止した街の中で、日本国政府の支援(月5万円分を上限とした、希望に応じた物資)を受けながら暮らしている。ゾンビと戦いながらどう暮らすのか、というよりは、文明から隔離されてしまった街の中で、どう物資を調達しながら生きていくのか+ゾンビという具合。ちなみに電気水道などのメインインフラも生きている。おそらく町内ではメンテナンスできていないので、今のところは、かもしれないが。

設定がこう見るとなかなかハードなのだが、主要なキャラクターは全員ゾンビの倒し方は心得ていて、なのでゾンビ方面で死に瀕することはあんまりなくて、基本的にはサクッと読める馬鹿っぽいギャグマンガ。背景にハードな設定がチラチラと見えながらも、その本筋(そもそものゾンビ発生原因やら、彼女ら3人の出自やら。。)はなかなか明らかにされず、暗い空気だけほのかに漂わせながら、どうしようもない日常が過ぎていく。ギャグとシリアスの配合具合は初期の『銀魂』に近いかもしれない。そして「日常から切り離された日常」「いつ終わるかもわからない災禍」という空気は、どこか今の世の中に通ずるものもある*1。軽く読めるはずなのに、随所にシリアスを突っ込んできて後を引く感じがくせになる。

pixivニコニコ静画 で全話無料で読める状態だが、単行本も出ているので、気に入ったらそちらも是非、というところ。ちょうど昨日、読み応えのあった4話のシリーズが終わったところなのでおすすめ。

石坂ケンタ『ざつ旅-That's Journey-』

雑、旅。かく言う自分も雑に新幹線取って雑に1泊とかたまにやるのだけど、それってある程度旅慣れているから出来ている部分があり。このマンガの場合はほとんど旅行経験もなく、地理的知識みたいなものもない主人公が、思いつきで Twitter アンケートで行き先を決める「雑旅」を始めたところから、徐々に旅行趣味へハマっていく。宿すら現地調達で、女性が雑旅をするのは見ててヒヤヒヤもするのだが、『ぱらのま』のような玄人の旅を見るのに慣れていると、これぐらい「雑」な旅でも別にいいんだなぁという、妙に肩の力が抜けていく思いがある。

本作主人公である漫画家の鈴ヶ森ちか先生は、実際に Twitter アカウントを持ってそこでアンケートを行い、旅の様子も実況しているので、これを追いつつマンガで後から追いかけるのも面白そう。ちなみに、この手の Twitter アカウント、よくあるよね、なるほどね、と言いたくなるのだが、鈴ヶ森先生、先日読み切りが電撃マオウに載ったらしい。何を言っているのかわからない? 僕もどういうことだかはよくわかっていない。

前屋進『メイドさんは食べるだけ』

食べるだけ。本当に食べるだけ。それも鯛焼き17アイス(らしき棒アイス)といった、たわいのないものを心底幸せそうにおいしそうに食べるメイドさんをひたすら眺めるマンガ。それだけなんだけど、人が美味しいものを美味しそうに食べているところを見ていると、なんだか幸せな気分になりあmせん?

久保帯人『BURN THE WITCH』

Image from Gyazo

久保帯人のマンガ*2はリズムであり音楽であり映画的なのである。モノローグで語れる、よく言われるところのポエム。つい口走りたくなる技の名前やキャラクターの名前、都々逸のような心地いい口上。暗転を思わせるベタ塗りのコマや、コマ外のサブタイトル表記等を駆使した映像的なメリハリ。読んでいてハイになれるマンガだと、そう捉えている。

今回は4週連続掲載の短期シリーズということで、早くも来週完結してしまうので、その折りにでもまた。しかし今週の展開を見るとどう考えても完結させる気はないだろうと思うのだが、今後どうなっていくんだろうか。

*1:このマンガを知ったきっかけも、何かコロナと絡めて紹介しているツイートを見かけたことだった。元ツイートは失念。

*2:画像は集英社週刊少年ジャンプ 2020年38号』掲載の久保帯人『BURN THE WITCH #1』より。